本章ノ壱 一節「竹取合戦」
遥か昔――“文明破壊・救済を自作自演して英雄になったクソ野郎ども”がいた。
彼らは《CLUBエデン》なんて組織を作り、裏から歴史をこねくり回してきた。
それから数千年……宇宙は見た目こそ平和だが、裏では相変わらず誰かが何かを企んでいた。
“世界は、とうの昔に乗っ取られている”。
そんな世界で、この物語は―― とある辺境惑星の片田舎から始まる。
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本章ノ壱 昔醒の兆し 編
一節 竹取合戦
- 星影の策謀
- Boy meets Girl
- 11月2日(日)
- 11月3日(月):継がれし灯
- 11月4日(火):セクハラ or セクハラ
- 11月5日(水):プラモデル
- 11月6日(木):夜もギンギン
- 11月7日(金)
- 11月8日(土)
- 11月9日(日)
- エピローグ
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星影の策謀
白銀歴1204年11月1日(土) 23:00
惑星テラ=プレアデス テラ連合圏 島国ヒモノト 静岡県
不死山(ふじさん)の麓
株式会社夕星重機製作所――表向きは従業員100名・売上100億円の中堅重機メーカー。
だが実態は、以下3名しか社員が存在しない“幽霊企業” である。
社長 夕星 可染(ゆうつづ かぜん)
平安時代から生き続ける“不老不死の変態”。
裏の顔は「ヒノモト征服」を夢見る自称悪人。
ただし目的は曖昧で、本人も何をしたいのかよく分かっていない。
科学者 調 石笠(つきの いわかさ)
研究と趣味に全力を注ぐ、頭脳派でありながら残念な変態。
普段は冷静だが、興味のある分野になると暴走しがち。 可染の妄想を技術で実現してしまう危険人物。
秘書 珠村 鬼乃子(たまむら きのこ)
夕星重機製作所の秘書兼受付嬢。 唯一の常識人であり、可染と石笠の暴走を止められる存在。
(傍から見ると、それは“世話”や“介護”に近い。)
彼女がいなければ、この一味は何も回らない。
工場の生産ラインはすべてAIとロボットが担当し、 モータ、制御盤、筐体に至るまで 完全内製化。
保守も台座付きロボットが行うため、人間の手は一切不要。
設計・開発は人工知能 KISARA が担当し、 営業は人間そっくりの アバター社員 がこなす。
そのため、外部からは“優良企業”に見えるが、 実際には 3人組の秘密基地 に過ぎない。
なお、技術力は世界トップクラスだが、 会社規模はなぜか「中堅企業」の枠に収まっている。 理由は不明。
(鬼乃子曰く「可染様が書類仕事を嫌がるから」)
社長室の奥の鋼鉄の扉が軋み、薄暗い司令室に灯りがともる。
壁一面のモニターには、宇宙航路、軍事衛星、各国のニュースが並び、
中央の巨大スクリーンには――謎の宇宙船がヒノモトに接近する映像。
可染「あと1週間…よりにもよって、あのルナルナ王が……オレ様の領土に来るだと?」
鬼乃子(心の声:あなたの領土ではございません。固定資産税も払ってません)
石笠「か、閣下…そ、想定外の事態です……ルナルナの特使だけが……すでにヒノモト入りを……」
(PC画面には、宇宙船から這い出る竹娘)
可染「はぁぁ!? なんで勝手に来てんだよ! 許可は!? 手土産は!? 行き先はどこだ!」
石笠「京都府……料理店《なよ竹》です……」
可染「み、深雪ちゃんの店!? やばい! 絶対アレを奪いに来たんだ!
……アレって何だっけ。丸くて光ってて……いや違うか? まあいい!
とにかく明日《なよ竹》に向かう! 腹も減ったし、深雪ちゃんにも久しぶりに会いたい!」
鬼乃子(心の声:深雪さんは……とっくにお亡くなりになっています。
あなたが“久しぶり”と言ってる間に三回忌も終わりました。
そして今は、彼女の養子の少年が店を継いでいます。
何度説明しても忘れるんですから……もう脳が限界なんでしょうね。
……でも《なよ竹》の筍ご飯は絶品なので、行くなら私もついて行きます)
Boy meets Girl
竹林に降る星
その少し前…
白銀歴1204年11月1日(土) 22:16
惑星テラ=プレアデス テラ連合圏 島国ヒモノト 京都府
料理店《なよ竹》横の竹林 上空1㎞
月京 竹娘(つきのみや たけのこ)は操縦桿を握りしめながら、深くため息をついた。
「……運転してみて気づいたけど、オーバーホールの時に減速機能不全を潰し忘れたみたい。参ったな。垂直落下で大破しないことに賭けよう」
ほぼ墜落に近い角度と速度で地面に突っ込み、宇宙船は盛大に煙を上げた。
ハッチをこじ開け、竹娘はよろよろと這い出る。
竹娘「……し、死ぬかと思った……」
目の前には、尻もちをついたまま固まって赤面している少年がいた。
手には鎌、足元には筍の入った袋。
そして――その背後には、東洋の龍?が佇んでいる。
少年「……し、死んだかと思った……」
少年は慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「ぼ、僕、小粒 種男(こつぶ たねお)と申します……! あの、怪我はありませんか?」
竹娘(心の声:なんて礼儀正しい子なの……龍を従えてる? この子、ただ者じゃない……
……そしてこの子、め、め、めっちゃかわいいーーー)
「うん、大丈夫。こちらこそ殺しかけてごめんなさい。
私は、月京竹娘。よろしくね、種男くん」
種男(心の声:なんて誠実な人なんだ……この墜落でケロッとしてる? この人、ただ者じゃない……
……そしてこの人……す、す、すごくキレイーーー)
竹娘「あの……その龍、乗ってもいい?」
種男「えっ……あ、はい。あの……優しくしてください」
竹娘は龍にそっと触れ、背にまたがってみる。
竹娘「生物じゃない!?……やっぱり、触れても正体が分からない。何者なんだろう、この子」
(傍から見れば、宇宙船から出てきた少女が少年の龍に乗って首をかしげている、奇妙な光景だった)
そのとき、竹娘のお腹が ぐぎゅるぅびぃ、と鳴った。
竹娘「あっ///」
少年「あの……お怪我もされてるみたいですし……よかったら簡単な手当てと、ご飯、食べていきませんか?
ここの隣の料理店《なよ竹》、僕がやってるんです。
へ、変なこと……しませんから」
竹娘(心の声:えっ……い、今どきこんな親切な子いるの?……こんな可愛い男の子いるの?
宇宙海賊の野郎どもみたいに“身体で払え”とか言ってこないタイプ……と、私の第6感が言っている。
……よし、利……甘えちゃお
いずれ悪党に使い捨てられちゃいそうでほっとけない、、、かも。)
「よろしくお願い申し上げます!」竹娘は大げさに敬礼した。
かぐや姫の再来?
閉店後の《なよ竹》には、出汁の香りと静かな夜気が漂っていた。
竹娘は、種男に手当てを受けた後、出された料理を次々と平らげていく。
空腹だったとはいえ、その食べっぷりは見事だった。
「……ふぅ。生き返った……。ありがとう。キミは世界一の料理人だね」
種男は照れ笑いしながら皿を下げ、店内のテレビに目を向けた。
画面には、ルナルナ王族のヒノモト来訪を伝えるニュースが流れている。
「……あの、たけのこさん……でしたよね」
ニュース映像の王族の衣装と、竹娘の羽織の雰囲気が似ているのに気づき、種男はおそるおそる口を開いた。
「ヒノモトには……何しに来たんですか?」
竹娘は箸を置き、にこっと笑った。「タメで良いよ、種ピー」
「た、種ピー……?」
「うん。でね、種ピー。かぐや姫って知ってる?」
「う、うん。御伽話で、平安京に現れた悪魔を倒してヒノモトを守った……ルナルナの武家、月京家の戦士だよね」
「それ、実話を歪めた話なんだよ」
竹娘は、羽織の胸元に刻まれた紋章を見せた。寝待太刀にも同じ紋が刻まれている。
「ヒノモトを守ったってのが真っ赤な嘘。ホントは滅ぼす側に加担してた悪党なんだよ。
で、私はその血筋と意思を継ぐ者、ってわけ」
ちょうどそのとき、テレビに映ったテロップが目に入った。
《一週間後、ルナルナ王ヒノモト来訪》
《月京家の特使、かぐや姫ゆかりの地へ》
画面には、竹娘の羽織と同じ紋章が映し出されていた。
「えっ……」種男の顔が固まる。
竹娘はわざとらしく口角を上げた。「来週が楽しみだね、種ピー」
種男は神妙に、少し悲しそうな顔で黙り込む。
竹娘(心の声:冗談だよ。お人好しすぎるから、ちょっとからかいたくなる……そんな顔しないで)
気まずさを誤魔化すように、竹娘は続けた。
「で、そのついでと言ってはなんだけど……今日、泊めてくれないかな?
ヘンなこと、しないからさっ!」
狼狽える種男を見て、竹娘は瞳を潤ませながら さらに畳みかける。
「よぅよぅ、今から宿探すのは無理だろぅ?
種ピーは か弱い女の子をひとり夜の都に放り出したり、しないよなっ!?」
「は、はいい……。この建物の二階、僕の住居なんです……」
胸の高鳴り、緊張、恥ずかしさが混じった声で、種男は遠回しに了承した。
11月2日(日)
翌日。
白銀歴1204年11月2日(日) 08:00
開店準備をしながら、種男は昨晩の出来事を思い返していた。
「ほぼ一睡もできなかった……」
「僕の服を着て、惜しげもなく腹と脚を露出させてる竹娘さん」
「謎の機材を僕の部屋で広げて何かやってる竹娘さん」
「唐突に ”しりとり” しよう って言ってきた竹娘さん」
「僕の布団に後から平気で入ってきた竹娘さん」
「僕を抱き枕にして寝始める竹娘さーーー……」
顔を覆って悶絶していると、店の扉が勢いよく開いた。
クレーマー or カスタマー?
「おらぁ、女男! 唐揚げ定食特盛とチキン南蛮単品と煮卵六個、持ってこい!!」
五十守麻呂(いそがみ まろ)――ラッパーのような衣装を着た少年が仁王立ちしていた。
見た目は威圧的だが、仲間の前では“兄貴分になりたい”年頃の少年である。 その背伸びが、だいたいトラブルの火種になる。
後ろには、改造学生服を着た倉持桜司(くらもち おうじ)が控えている。
見た目は完全にヤンキーだが、中身は義理堅くて面倒見の良い常識人。 マロの暴走にツッコミを入れるのは、いつも彼の役目だった。
「マロ、落ち着けって。やめろよ、お前の誤解だったんだから」
桜司は種男に“すまん”とジェスチャーを送る。
「俺は焼きサバ定食。ご飯大盛りで」
竹娘に気づいたマロが、急に挙動不審になった。
「うはっ! 美! 美! そ、そ、そいつ……ちゃんと“女”なのかよ……?」
竹娘は首をかしげた。「処女です」
店内の空気が一瞬止まった。
竹娘(心の声:ん? 経験人数の話じゃなかったの……?)
結果としてボケ役になった竹娘はスルーされ、
マロは爆速で料理を平らげ、レジにぴったりの金額を叩きつける。
「釣りは要らねえ!」
「うう……お釣り、ございません……」種男は半泣きで見送った。
竹娘は小声でつぶやく。
「……あの人たち怖。お友達……じゃないよね?」
「いつの間にか嫌われてて……」
種男は肩を落とした。
クレーマー or カスタマー?(2)
そのとき、店の扉が再び乱暴に開いた。
「つ、月京の末裔いいいい!!
クソガキいいい!!
このクソカップルめええ!!
深雪ちゃんの店を……奪いやがったな!!」
夕星可染が、怒号とともに突入してきた。
竹娘(心の声:また変なのが来た(笑))
「えっ!? 夕星さん、ち、違っ……!」
まただ。何度も説明したのに――
種男は慌てて手を振る。
竹娘はぽつりと言った。
「カップル……この国でも“つがい”の意味ですか?
彼は分かりませんが、私は未経験です」
……誰も反応しなかった。
鬼乃子は額に手を当て呆れ果てる。
(心の声:だから深雪さんは亡くなってて、この少年が今のオーナーだと何度も……。
でも隣のルナルナ特使は……本当に何しに来たんでしょうね)
結局、可染はブツブツ文句を言いながらも、しっかり飯を食って帰っていった。
可染「次に来るまで、レシピは残して自首しとけ!」
石笠「あなたの料理は良質な化学変化の極みです……!」
鬼乃子「小粒さん、いつもゴメンなさいね。また食べたいので出禁はご勘弁を」
竹娘はぽつりとつぶやく。
「種ピーの知り合い、面白い人達ばかりだね。」
動けないのは誰のせい?
白銀歴1204年11月2日(日) 23:10
閉店後の《なよ竹》には、湯気の名残と出汁の香りがまだ漂っていた。
静かな店内で、ただひとつだけ動かないものがある。
――種男だった。
テーブルに突っ伏し、腕を枕にしてすぅすぅと寝息を立てている。 昨日からの疲れが一気に出たのだろう。 頬にかかった前髪が、微かに揺れていた。
竹娘はそっと近づき、ブランケットを肩にかけた。
「……お疲れ、種ピー」
声に出すと、胸の奥が少しだけ温かくなる。
こんな優しい子が、どうしてこんなに頑張って生きているんだろう―― そんな疑問がふと浮かんだ。
竹娘は足音を忍ばせ、店内を見回した。 厨房、倉庫、裏口。 そして階段を上がり、二階の住居へ。
薄暗い廊下に、古い木の匂いが漂う。 壁には、色褪せた写真がいくつも飾られていた。
その中の一枚に、竹娘の足が止まる。
――種男と、年配の女性。
優しげな女性が、幼い種男の肩に手を置いて笑っている。 その笑顔は、どこか懐かしい温度を持っていた。
竹娘は写真に触れ、そっと目を伏せた。
(……王室が押収した、1200年前の“かぐや姫の活動記録”。
政府は“悪魔のカケラ”を得るため、彼女を囮に京都へ別働隊を送り込んだ。
五つのうち三つは回収され、今もルナルナに封印。
本命だったらしい残り二つ――これは記録ごと破棄されていた。
かぐや姫の宇宙船の航行記録には、この竹林があった。
老夫婦の私有地……のちに大伴家が買収し、1200年守り続けた土地。
末代の大伴深雪さんから……今は種ピーが継いでいる。
……偶然とは思えない)
竹娘は写真を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……やっぱりダメだよね、こんなことしちゃ」
自分の目的のために、種ピーの過去を勝手に探るなんて。 彼の優しさに甘えて、踏み込んでいい場所じゃない。
竹娘は写真を元の位置に戻し、そっと微笑んだ。
「……明日、直接聞いてみよう。 明日のお店が終わったら、ちゃんと私の口で」
11月3日(月):継がれし灯
白銀歴1204年11月3日(月) 08:00
《なよ竹》の暖簾を揺らして、またあの声が飛び込んできた。
「おい! 今日も監視しに来てやったからな!!」
種男は、ちょうど味噌汁をよそっていた手を止め、 にこやかに振り返った。
「今日も来てくださってありがとうございます。 でも……確か静岡にお住まいでしたよね?」
「ふふふ……聞いて驚け、小粒よ!」
可染は胸を張り、どや顔で天井を指さした。
「この建物の上に、光学迷彩を施した飛行船を停泊させている! それを使えば静岡からでも十分で着く! どうだ、すごいだろう!」
「すごいですね!」 種男は素直に感心して目を輝かせた。
「そういえば……いつぞや、お連れさんが話してくださいましたよね。 “絶対に羽折れしない高速回転タービンを作るんだ”って。 もしかして、それをお使いなんですか?」
可染「え? し、知らん。」
石笠がいないせいか、可染は一瞬で目をそらした。 その背後で、鬼乃子が額に手を当てている。
カウンターの奥で、ウェイトレス姿の竹娘がそっと二人を見ていた。
竹娘(心の声:流体力学好きの私……絶妙に気になる話題! 答えを知ってそうなお連れさん、今日は来てないみたいで残念。
それにしても種ピー、この歳で働いてるのに教養あるんだ。 どんな人生を歩んできたんだろう……)
竹娘は、ふと自分の幼少期を思い出す。 惑星トトのサピエンティアの研究施設とネザーランド家の道場で、好きなだけ学問と武芸に触れられた日々。 自然に、楽しく、知識と腕っぷしが身についていった。
竹娘(心の声:……でも種ピーは違う。 この子は、誰にも頼らず、自分で全部身につけてきたんじゃないかな……)
可染「おい小粒! 昨日の日替わり定食を頼むぞ!」
種男「も、申し訳ありません、今日はその具材が無くて!」
鬼乃子(心の声:……可染様。ヒノモト語ができても、会話が成立していませんわ。) 「本日の日替わり定食をお願いします。」
閉店後の《なよ竹》は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。 厨房の片付けを終えた竹娘は、店内のテーブルに座る種男へと視線を向けた。
彼は湯呑みを両手で包みながら、どこか言いにくそうに口を開いた。
竹娘は、さっき可染が言っていた「大伴」という名前が気になっていた。
竹娘「ねえ、夕星さんが言ってた“大伴さん”って……種ピーの家のこと?」
種男は少し驚いたように目を瞬かせ、 それから、ゆっくりと首を振った。
種男「えと……僕、家族のこと、何も知らないんだ。」
竹娘「……え?」
種男は、湯呑みをそっとテーブルに置いた。 その仕草は、どこか慎重で、どこか寂しげだった。
種男「どこで生まれたのかも、誰が親なのかも分からない。 気づいた時には、深雪さんが僕を育ててくれてて……」
竹娘は息を呑んだ。 深雪――店の前の写真に写っていた、優しげな女性。 やはり彼女が大伴家最後の――
種男「深雪さんは……僕が物心ついた頃には、もう“余命数ヶ月”って言われてたんだ。 でも、そこから何年も一緒に暮らせた。 僕にとっては……本当のおばあちゃんみたいな人だった。」
竹娘は言葉を失った。 彼の声は淡々としているのに、どこか温かくて、どこか痛かった。
竹娘(心の声:……学校にも行かずに看病してたのかな。 そんな小さな体で……どんな思いをしてきたんだろう)
種男は続けた。
種男「おばあちゃんが亡くなって……僕は店を継いだ。 この土地をとても大事にしていたし、僕も料理が好きだったから。」
竹娘はその言葉に、胸の奥がざわつくのを感じた。
(……“この土地を”? ルナルナ政府が破棄した機密に関わるかもしれない場所…… でも、種ピーにそんな気配はない)
だが、竹娘はその疑問を飲み込んだ。 今は、彼の過去を静かに受け止めるべきだと思った。
竹娘「……そっか。深雪さん、大切な人だったんだね。」
種男は小さく笑った。
種男「はい。僕の全部をくれた人です。」
竹娘はその笑顔を見つめながら、
(ここに来れば……ヒノモトのウラガネ側から接触があると思ったけど、 今はもう関係ないのかも)
と判断した。
でも同時に、胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
(……でも、あの“龍”は? あれだけは……説明がつかない)
竹娘はその疑問を、そっと胸の奥にしまい込み、小さく呟いた。
「……良いんだ。今は、ルナルナに帰るまでの数日間を楽しむことにするよ」
11月4日(火):セクハラ or セクハラ
白銀歴1204年11月4日(火)
《なよ竹》の朝は、いつもより賑やかだった。
「小粒! 今日も監視に来てやったぞ!! ところで! 俺が毎日来るようになった理由、覚えてない?」
可染が開店と同時に乱入した――その直後。
その背後から、近所の主婦たちが雪崩のように押し寄せ、
可染はそのまま轢きつぶされ、 床に「バキッ」と何かが軋む音が響いた。
可染「ぐはあ! ば、ババアども、、、っ!!!」
「今日も小粒くん、可愛いわねぇ……」
「うちの娘のお婿さんになってくれない?」
「昨日より背が伸びてない? 伸びてるわよね?」
「ねぇ奥さん、あの子……将来いろんな意味で有望よねぇ(ひそひそ)」
「写真撮っていい? 個人用に(意味深)」
「もう“いろいろ”出始める年頃かしらねぇ(意味深)」
「種男くんなら“そのへん気にしなくていいわよ”(意味深)」
種男は困ったように笑いながら、 味噌汁をよそい、注文を取り、料理を運ぶ。
竹娘はその様子を見ながら、
(……この星の人たち、自由すぎない?
種ピー、かなり際どいセクハラされてるね……
彼にとってセクシャルハラスメントなのか、セクシーハラショー(万歳)なのか……
なんちゃって
……ま、気づいてないみたいだけど……)
と心の中でツッコんでいた。
そして同時に思う。 (……でも、種ピーは本当に愛されてるんだな)
11月5日(水):プラモデル
白銀歴1204年11月5日(水)
昼下がり。 竹娘は、風呂場の床に座り込んでいた。
「……できた!」
塗料がつくのを気にして下着姿で作業していた彼女の手には、完成したプラモデルの戦闘機。 細部まで丁寧に塗装され、まるで本物のように輝いている。
「すごい……筆塗りでこれ!? 竹娘さん、器用なんですね……(白…じゃなくて目のやり場が……)」
「ふふん。ゲルマニア公国地方の模型コンテストで佳作取ったことあるんだよ
……まあ、子どもの部門だけどね」
種男は感心しつつ、 しかし視線の置き場に困りながら部屋を片付けていた。
竹娘はふと机の上のノートに手を伸ばす。
「ニシシ。もしや交換ノート?」
「ち、違! でも、わっ、だ、だめっ!」
慌てて竹娘からノートを奪い、抱え込む種男。 頬が真っ赤だ。
竹娘(心の声:……詩? かわ……)
「み、見ないでください……!」
「見てないよ。見てないけど…… “思い出はいつも綺麗だけど、それだけじゃ飢え死にしちゃう”……んだよね?」
「わああああ!!」
竹娘はくすっと笑った。
11月6日(木):夜もギンギン
白銀歴1204年11月6日(木)
商店街の夕暮れ。 二人は並んで歩きながら、食材を買い込んでいた。
「竹娘さん、九城ネギは白い部分が甘いんですよ」
「あっ……これルナルナじゃ中々買えないヤツ。 あっちは全部緑の部分ばっかだよー。 ヒノモトじゃ、こんなに安いんだ……」
種男はついつい嬉しくなって続ける。
「あと、この銀目鯛は目が澄んでるのが新鮮です」
「多薔薇ガニは蟹じゃなくてヤドカリの仲間なんです」
「茶都芋は帝王石灰を焼き石にして炒ると美味しいんです!」
「あっ、ごめん、つい嬉しくて……退屈だよね。」
竹娘は目を瞑って微笑んだ。 「ううん。もっと聞かせて?」
(……この星の生活、悪くないかも)
竹娘は、テラ=プレアデスのAI任せでない“手作業の文化”に少しずつ惹かれていった。
魚屋のオヤジが声をかけてきた。
「おうおう、種の字、おめー いつ こんな べっぴんさんと デキてたんだべ?」
「いつもウチの魚 おめーの店で宣伝してくれてるお礼兼ねて、 この鰻、持ってけ。夜もバッチリよ!」
竹娘「あの、私たちそんなんじゃ……」
種男「? 今シーズンオフですよ? 僭越ながら宣伝するなら夏の方が。」
魚屋のオヤジ「……すまねえ、おめーで食ってくんろ。」
帰路につく途中、、、
竹娘(心の声:……この星の人たち、ほんとストレートすぎるよ…… でも、嫌じゃないのが……ちょっと悔しい)(そうだ、ちょっとからかっちゃえ。)
「ねぇ、種ピー、まだ私 ヒノモト語に精通してなくてさっ、 さっきのオヤジさんの言葉… “べっぴんさん”てどういう意味?」
「え!? えーと、美人さん、の意味だよ」
「そうなの?(知ってるよ。)」
「じゃあ、”デキてる”ってのは?」
「、、、こ、恋人同士の意味、かな///」
「……そ、そうなんだ(それも知ってる……知ってるよ。でも、あなたの口から聞くと……なんか、胸がくすぐったいな……)
11月7日(金)
PM休
白銀歴1204年11月7日(金)
《なよ竹》は午後から休業だった。
「今日は……その……お休みなので」
種男は少し照れながら言った。
「映画にでも行きませんか?」
竹娘は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になった。
「リクエストしていい? この国でのタイトル知らないんだけど……
互いに自分こそ母親だと主張して譲らぬ2人が、
1人の少年を巡って争いながら珍道中を繰り広げるロードムービー。
テラ連合圏内でしか劇場公開されてないみたいなんだー」
種男「え、コムニア映画なのに!? ガリアン花冠国作品のリメイクだよね? “母達の日”だったかな。」
竹娘「詳しいじゃん♪ 行こ、早く行こ!」
竹娘は種男の手を引っ張って店を出た。 夕陽が、二人の影を長く伸ばしていた。
夜風と誘い
種男「ビリー・サファイアとケビン・ウィリアムズのコンビはとっても似合ってたねー」
竹娘「マーゴットは悪ガキだけど良い子だった。……ああいう子、放っておけないよね。」
映画の感想で盛り上がる2人が店に戻ると、椅子に黒い財布が置きっぱなしになっているのに気づいた。
種男「あれ、誰か財布忘れてる。名刺……株式会社 夕星重機製作所……あ、夕星さんのだ。免許証、自宅の住所かな。届けてあげなきゃ。」
竹娘「えっ、届けてあげるの!? どーせ明日も来るんじゃない!?」
種男は少し考え、それから顔を上げた。
「僕の車で、行きませんか?五時間、真夜中のドライブ!」
竹娘「えっ、車? 種ピー、空飛べるのに… それに、疲れてない?今から大丈夫?着いても夜中だよ?どの道 渡すなら明日にしないと…」
種男は胸を張った。
「僕はクルマ好きなのです。 将来はカッコいいセダンに乗るんです!
… ホントは夕星さんの財布は口実。
竹娘さん、明後日の公務終わったらルナルナに帰っちゃうんでしょ? そう考えると、、、
映画だけじゃ嫌だなって、さっき思っちゃったんだ。
静岡に行く途中の巴奈馬湖周辺、夜とてもキレイなんだよ。」
竹娘(心の声:それって、遠回しなーーー
「……そっか。 うん、行こ。無理しない範囲でね。。。
…あ、もしかして そこ、鰻の名産地でもあるでしょ? ルナルナだとそこの鰻、びっくりするほど高いんだよーーー。」
そこには、 互いに気持ちを言葉にしないのか 出来ないのか 少し辿々しく話す二人がいた。
月影の理由
夕星重機製作所――社長室の奥に隠された、薄暗い司令室。
可染はモニターを睨みつけながら、ぶつぶつと独り言を漏らしていた。
鬼乃子はため息をつき、思い切って口を開いた。
鬼乃子「……可染様。 どうしてそこまでルナルナを……特に月京家を敵視なさるのですか。 “深雪さんの店を奪われた”以外にも、何か理由がおありなのですか」
可染は一瞬黙り、珍しく真面目な顔になった。
可染「……昔の話だ。
かぐや姫はな……ルナルナ政府に使い捨てにされて、命を落としたんだ。
御伽話の英雄譚なんて、全部嘘っぱちだ」
鬼乃子は目を瞬かせた。
可染「それに……確か……
オレは“ヤツら”に平安京を支配されないよう、五人の部下と五つの財宝を守らなきゃならなかった。
五つのうち……二つは……なんとか守ったはずだ……」
鬼乃子(心の声:部下……まさか大伴家も、その一つ……?)
可染は拳を握りしめた。
可染「ルナルナ特使を見たか?
あれが月京家だと!? 姫竹(きさら)ちゃんに似ても似つかねえ!
……偽物だ。本物の“月京の血”は……もう残ってねぇ」
鬼乃子(心の声:……似てないのは当然です。1200年で何代累代していると思っているのですか。
月京姫竹(きさら)……それが、かぐや姫のお名前。
そして弊社AIの名前“KISARA”……まさか可染様、そこから……?
……やっぱりキモ……いえ、複雑なご事情があるのですね)
可染「だからオレ様が……このヒノモトを守らなきゃならねぇんだ……!」
鬼乃子は怪訝な顔で呟いた。
鬼乃子「……可染様の癖に……
そんな真剣な事情がおありだったなんて。
少し……本当に少しだけ同情してしまうじゃないですか」
可染は急に立ち上がった。
可染「よし! そうと決まればルナルナ迎撃準備だ!
石笠!先日ヒノモト放送協会からキャンセルくらった ” 集金兵 ” 二百体を、戦闘用に改造しろ!」
石笠「閣下!アイアイサー!!!」
鬼乃子(心の声:……製品のシェアを上げることが“世界征服”ではなかったのですか?
このままだと、ただの犯罪者ですわ……)
タネピー号 発進
《なよ竹》の前の通りは、夜の冷気に沈んでいた。
街灯の光が細く伸び、舗装路に淡い影を落としている。
種男の軽自動車は古いけれど丁寧に手入れされていて、
ヘッドライトがふっと灯ると、まるで小さな船が夜の海に浮かび上がったようだった。
竹娘は腕を組みながら、車をじっと見つめた。
「……これが、タネピー号?」
「(タネピー号?) はい。あの……古いですけど、ちゃんと走ります」
少し誇らしげで、少し照れた声。
竹娘はその声音に、胸の奥がくすぐったくなる。
「いいじゃん。こういうの、好きだよ。 “自分の足”って感じがして」
種男は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑った。
「……乗ってください。シート、倒れやすいので気をつけて」
竹娘は助手席に腰を下ろし、ドアを閉める。
軽い金属音が夜に吸い込まれ、車内に静寂が満ちた。
エンジンがかかると、古い車特有の低い振動が足元から伝わってくる。
竹娘は窓の外を見ながら、ぽつりと呟いた。
「ワオ……こういうの、初めて。 宇宙船とは全然違うんだね。
揺れるし、音もするし……でも、なんか落ち着く」
種男はハンドルを握りながら、横目で竹娘を見た。
「僕、車が好きなんです。 空を飛べても……地面を走るのって、なんか特別で」
「へぇ……」
竹娘はその横顔を見つめた。
街灯の光がフロントガラスを流れ、種男の頬に淡い影を落とす。
(……この子、ほんとに真っ直ぐだな)
車がゆっくりと動き出す。
夜の京都の街並みが、静かに後ろへ流れていく。
「……ねぇ、種ピー」
「はい?」
「さっきの……“映画だけじゃ嫌だな”ってやつ。 あれ、どういう意味?」
種男は一瞬、ハンドルを握る手に力を込めた。
そして、少しだけ視線を逸らしながら答えた。
「……そのままの意味です。 竹娘さんと過ごせる時間、もっと欲しいなって……思っただけで」
竹娘は窓の外に視線を戻した。
でも、頬がほんのり熱い。
(……ずるいよ、そういうの)
車は夜の街を抜け、巴奈馬湖へ向かう長い道へと滑り込んでいく。
二人の間に流れる沈黙は、気まずさではなく、
“これから始まる何か”の予感で満ちていた。
Seventeen
車は巴奈馬湖へ向かう山道を走っていた。
街灯のない道は闇が深く、ヘッドライトだけが細い光の道を切り開いていく。
竹娘は窓を少し開け、夜風を吸い込んだ。
「……冷たいけど、気持ちいいね」
「はい。湖が近いから、空気が澄んでるんです」
種男はハンドルを握りながら、ちらりと竹娘の横顔を見た。
月明かりが彼女の頬を淡く照らし、その表情はどこか遠くを見ているようだった。
しばらく沈黙が続いたあと、竹娘がぽつりと呟いた。
「……ねぇ、種ピー」
「はい」
「今日って……七日だよね?」
「えっと……はい」
竹娘は小さく笑った。
「そっか。じゃあ……私、何歳に見える?」
(うわ、絶対に間違えられないヤツーーーーーー……)
「え、と……16歳?」
「惜しい!!! 昨日までなら正解!」
種男の手が、ハンドルの上でぴたりと止まった。
「えっ……今日、誕生日……?」
「そう。言ってなかったっけ? 11月7日」
「は、初耳です……!」
種男は慌てて言葉を探した。
「えっと……その……おめでとうございます!
……あの……知らずに、僕のやりたいことばかり……!」
竹娘は吹き出した。
「ふふっ、そんなに慌てなくていいよ。 別に祝ってほしくて言ったわけじゃないし」
でも、その声はどこか嬉しそうだった。
種男は少しだけ勇気を出して言った。
「……でも。 竹娘さんの誕生日を、僕が知れたのは……なんか、嬉しいです」
竹娘は窓の外に視線を戻した。けれど、頬がほんのり赤い。
車内に流れる沈黙は、さっきよりもずっと柔らかかった。
竹娘は夜空を見上げながら、小さく呟いた。
「……誕生日を誰かと一緒に迎えるの、久しぶりでさ」
種男は驚いて竹娘を見る。
「え……そうなんですか?」
(竹娘さんも……家族が居なかったり、会えなかったりするのかな)
竹娘は少し間を置いてから、ぽつりと答えた。
「うん。 お父さんと……友達と……小さい頃は毎年やれてたのにな」
その言い方は、懐かしさと寂しさが半分ずつ混ざっていた。竹娘は少しだけ寂しそうに笑った。
「でも今年は……
こうしてあなたとテラの夜道を走ってる。
なんか、不思議だね」
種男はゆっくりと頷いた。
「……僕は、嬉しいです。 竹娘さんの誕生日を……一緒に過ごせて」
竹娘は目を閉じ、夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。
(……こんなの、反則だよ。 そんなこと言われたら……)
車は静かに湖へ向かって走り続ける。
二人の間に流れる空気は、もう“ただの旅路”ではなかった。
巴奈馬湖周辺の情景
車が山道を抜けると、視界がふっと開けた。
夜の闇の中に、巨大な水面が静かに横たわっている。
巴奈馬湖――
街の光を遠くに映しながら、まるで黒い鏡のように、風もなく凪いでいた。
湖畔に沿って走る道路は、本来なら観光客向けの明るい道のはずなのに、どこか“妙に整いすぎて”いる。
ガードレールの根元には、不自然に新しい金属片。
道路脇の植え込みには、夜目にも分かるほど規則的な“黒い点”。
竹娘は眉をひそめた。
(……センサーの密度、おかしくない? こんな地方道に、軍用レベルの監視網…… しかも見たことない独自規格の機器まで……)
種男は気づかず、ただ湖の広さに感嘆していた。
「すごい……こんなに大きいんですね、巴奈馬湖って。
鰻の仕入れでこの辺の卸売場には来たことあるんですけど、湖畔は初めてで」
竹娘は周囲を見回しながら、胸の奥に広がる違和感を整理する。
(……湖畔は観光地の雰囲気を出してるけど、 そこに至る道が……妙に厳重すぎる。 これは監視というより……迎撃用の布陣……?)
道路脇の街灯は、どれも同じ角度で湖を照らしている。
その根元には、本来あるはずのない“冷却フィン”のような突起。竹娘の背筋に、冷たいものが走った。
(……種ピー。 この辺り、なんか……変だよ)
しかし種男は何も気づかず、車内ラジオに流れる歌謡曲「ヤタガラスの少年 / 神姫kids」を楽しそうに口ずさんでいた。
「そんな小さな“カケラ”に〜人生ごと売り渡すキミが哀しい〜 僕の心は 砕けちった 神珠さーーー♪」
(き、キレイな歌声……)
竹娘は、その歌を中断させたくなくて、もう少し聴いていたくて、言葉を飲み込む。
代わりに、湖の向こうに見える“妙に暗い区画”に目を凝らした。
観光施設の影にしては、形が硬すぎる。まるで“隠し通路の出入り口”のようだ。
(……ここら辺はただの観光地じゃない。 構造が……地下軍事施設のそれだ)
湖面に映る光が、まるで合図のように一瞬だけ瞬いた。
竹娘の心臓が跳ねる。
(……まずい。 ここ、もう射程圏内かも。
航空兵器があれば活動範囲内……もし私を狙う者がいたら……
今日だけは、この心配が自意識過剰であって……!)
だが竹娘の願い虚しく、この監視網はすでに――管理者へ、二人の情報を送信していた。
可染の誤認
だが――
この監視網の情報送信先が“こいつら”で良かったのかどうかは、神のみぞ知るところである。
夕星重機製作所・地下司令室。
モニタに映るのは、巴奈馬湖周辺の監視映像。
しかし、その大半は――湖畔でいちゃつくカップル達であった。
可染は腕を組み、画面を睨みつける。
可染「どいつもこいつも……人様の湖畔で乳繰りおうてからに……ゆ、許せねぇ。」
隣で石笠が、なぜか息を荒くしている。
石笠「うおっ……おうっ……おおうっ……おうっ……!」(※興奮している)
鬼乃子は頬を赤らめながら、しかし視線はしっかりモニタに釘付けだ。
鬼乃子「……お二人とも、悪趣味です」(※でも自分も見ている)
そんな中、
突然、警告音が鳴り響いた。
ピコン! ピコン! 緊急アラート発生!
画面に、竹娘と種男の姿が映し出される。
可染の目が見開かれた。
可染「あの二人……こっちに向かってる!? まさか、オレを倒しに来たのか!? 集金兵の改造が終わる前に攻めてくるとは……排除せねば!」
鬼乃子は画面を見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
鬼乃子(心の声)
(あの雰囲気……違う気がしますけど。 違って……欲しいです、なんか……)
可染は机を叩き、叫んだ。
可染「よぉし、いいだろう! ニセ月京……天才料理少年…… 貴様らがそのつもりなら――!」
可染は指を突き出す。
可染「無人戦闘艇にミサイルとバルカン、プラズマレーザー砲を積んで発進させよ! 二人を捕獲する!!」
石笠「アイアイサーーーッ!!」
鬼乃子はため息をつき、冷めた目で可染を見た。
鬼乃子(心の声)
(好きになさってください。 どうせ失敗するんですから。
あなたはそういう星の下に生まれている……)
鬼乃子はため息をつき、淡々と業務的な声で言った。
鬼乃子「……捕獲用の機材は積まれてますか?」
こうして、
“ただのドライブデート”は、
可染の誤認によって戦闘へと巻き込まれていく。
タネピー号、大破
巴奈馬湖の静寂を裂くように、背後から低い駆動音が迫ってきた。
竹娘が振り返るより早く、黒い影――無人戦闘艇が軽自動車の真横に並び、無機質な機械音声を響かせる。
機械音声(可染)
「止まるんだ、侵略者ども!」
種男は思わずハンドルを握り直した。
(侵略者ども……?)
その言葉に、ふと竹娘と出会った日の会話が脳裏をよぎる。
「ヒノモトを守ったってのが真っ赤な嘘。
本当は滅ぼす側に加担してた悪党なんだよ。
で、私はその血筋と意思を継ぐ者、ってわけ」
「来週が楽しみだね、種ピー」
竹娘は、あの時の種男の顔を思い出し、胸の奥でそっと呟いた。
(冗談だよ……お人好しすぎるから、 ちょっとからかいたくなっただけ…… そんな顔しないでよ)
だが、種男は知らないままだ。
(もしかして……本当に?)
(違う、そんなはずない。ずっと一緒にいた。怪しいことなんて……)
(でも、公務が明後日……明日は何をするつもりだったの……?)
(違う、アレは嘘だ……!)
不安が胸を締めつける。
その時――
機械音声(可染)
「とりあえず止まれー。止まらんと撃つぞー」
言った矢先、司令室では可染が別のボタンを押していた。
可染「あ、ヤベ」
次の瞬間――ミサイルが発射された。
石笠「閣下、控えめに言ってあなたはイカれております!!」
竹娘は反射的に動いた。
右手の手刀で種男のシートベルトを一瞬で切断。
左足で運転席側のドアを蹴り破り、種男の身体を抱き寄せながら車外へ飛び出す。
そして轟音。爆風ーーー
タネピー号が宙に浮き、回転しながら吹き飛ぶ。
竹娘は地面に背中から滑り込み、種男を胸に抱いたまま受け身を取った。
爆風が背後で弾ける。
竹娘は息を整えながら、ふと気づく。(……ん? 破片、一つも当たってない……)
その異常さに、竹娘の眉がわずかに動いた。
遠くの司令室では、鬼乃子がモニタを見つめながら青ざめていた。
鬼乃子(心の声)
(……この方とは闘いたくないですね
vs 無人戦闘艇
タネピー号の残骸の上空を旋回しながら、無人戦闘艇が再び機械音声を響かせる。
可染(機械音声)
「くそー! 捕獲! 捕獲! 距離を取り、バルカン砲発射!!!」
戦闘艇が旋回し、竹娘と距離を取ろうとした――その瞬間
戦闘艇のバルカン砲固定台に竹娘の飛び蹴りが炸裂する。
右脚が弧を描き台座を軋ませたかと思えば、左脚から放たれた閃光がジョイント部に突き刺さる。
空気が裂け、金属が悲鳴を上げた。
竹娘は宙を舞いながら着地し、
「これで撃ち落としちゃおうかなっ♪」と微笑んだ。
竹娘が落ちたバルカン砲を拾い上げたその時、戦闘艇の隠しハッチが開き、プラズマレーザー砲が姿を現す。
青白い光が収束し――レーザーが発射される。
竹娘はすでに反応していた。右手がレーザー同様の色に光り、プラズマを浮かばせている。
竹娘「バルカン撃つ手間、省けたよ」
レーザーを反射して撃ち落とすつもりだった。
だが――
レーザーは竹娘の腕に届く前に、ふっと消えた。
竹娘「!?」
振り向くと、種男の周囲に淡い光が渦巻き、龍の姿が半透明に顕現していた。
その龍が、竹娘を包むように防壁を張っている。
種男は不安そうに竹娘を見守っていた。
竹娘は息を呑み、そして微笑んだ。
竹娘「……ありがと、種ピー」
竹娘は拾ったバルカン砲を構え、戦闘艇へ向けて引き金を引いた。
ちゅ ど ー ー ー ん 。
無人戦闘艇は爆ぜ、夜空に散った。
遠くの司令室では、可染が腰を抜かしていた。
可染「な、何者なんだアイツら……」
石笠は肩をすくめながら、しかしどこか楽しそうに言う。
石笠「閣下。バルカン砲、人が撃てないように改修しておくべきでしたな。 もう何艇か出撃させますか?」
鬼乃子は深いため息をつき、冷静に状況を見極めていた。
鬼乃子「可染様、石笠様。結果は変わりませんわ。 それに、警察もじきに来るでしょう」
鬼乃子はモニタを操作しながら、淡々と続ける。
鬼乃子「戦闘艇は“正体不明”。
彼らは“被害者”。
私は“目撃者”として通報します。
――それで切り抜けられますわ」
可染は震える声で頷いた。
可染「た、助かる……鬼乃子……!」
鬼乃子は微笑んだ。だがその目は、どこまでも生暖かく冷静だった。
神通力
爆発の余韻が消え、湖畔に静けさが戻る。
竹娘は肩で息をしながら、真っ先に種男へ向き直った。
「……ごめんなさい。私のせいで巻き込んじゃった。大事なクルマーーー」
しかし種男は、むしろ目を輝かせていた。
「竹娘さん、さっきの……すごかったですよ!
あの飛び蹴り、何ですか!? 斬撃みたいな……人間技じゃないですよね!」
竹娘は照れ隠しに、さっきの飛び蹴りのポーズを再現してみせる。
「ふふん。これが生身の力。 で、種ピーが“斬撃”って言ったのが――“神通力”。」
種男が首をかしげると、竹娘は得意げに胸を張った。
「世界のルールを書き換える力、って言えば分かる?
何もないところから火を出したり、水を生んだり、空間曲げたり……
まぁ、森羅万象を“本能で理解”できれば、なんでもできるってワケ」
竹娘は調子に乗って、
「こう、バッ!って!」
と謎の決めポーズを取る。
種男は拍手してはしゃいだ。
大人の協力
パトカーのサイレンが近づき、若い女性警察官が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!? 怪我は!?」
事情を聞きながら、種男に事故報告の書類を書かせる。
「……巴奈馬湖に行く予定だった、と。 その後は?」
種男が 財布を届けにーーーと 答えようとした瞬間、
竹娘が小さく首を振る。
女警察官は一瞬だけ竹娘を見て、すぐに理解したように頷いた。
「――はい。 “あなたたちは湖に寄らず、そのまま帰宅した” ……そう報告しておきます」
帰り際、竹娘にだけ見える角度でサムズアップ。(うまくやりなよ)
竹娘も小さく笑って返した。
言っちゃった。。。
パトカーが遠ざかり、湖畔に再び静寂が戻る。
竹娘は湖面を見つめながら、ぽつりと語り始めた。
• 小さい頃の誕生日
• 父と親友との別れ
• 10歳で普通の生活が終わったこと
• 宇宙海賊として各国の腐敗を暴き、命を狙われていたこと
• 月京家の生まれではないこと
• 今日みたいな夜が“久しぶり”だったこと
本来なら、誰にも言えるはずのないこと。弱みにしかならないこと。
竹娘はそれを理解していた。
それでも――
種男にはどうしても打ち明けておきたかった。
種男は黙って聞き、竹娘の横顔を見守る。
かける言葉が、見つからない。
竹娘は最後に、少し照れながら言った。
「……ありがと。 今日、一緒にいてくれて」
もうすぐ夜が明けちゃうよ
東の空がわずかに白み始める。
竹娘が立ち上がり、種男の方を向いた。
「……行こっか。 夕星さんの免許証の住所、覚えてる?」
「うん。夕星さんの財布、ばっちり保護してたよ」
種男が頷くと、彼の周囲に淡い光が集まり、龍がゆっくりと顕現する。
出会った時よりも、
さっきよりも、
遥かに実体に近く、巨大だった。
竹娘はその龍の頭を軽く撫でて言う。
「着いたら……ゆっくり朝焼けでも見よっか」
その声音は、戦いの前とは思えないほど柔らかかった。
種男が頷くと、龍の身体が淡く光り、空気が震える。
龍の背にふわりと風が巻き起こる。
まるで二人を迎え入れるように。
種男が先に跨がり、竹娘がその後ろに乗る。
龍の鱗は冷たくもなく、熱くもなく、不思議な“生き物の体温”だけが伝わってくる。
龍がゆっくりと身を沈め――
次の瞬間、地面を蹴るように空へ跳ね上がった。
湖畔の景色が一気に遠ざかり、風が二人の髪を後ろへ流す。
夜の名残が漂う空を、龍は滑るように駆け抜ける。
雲の切れ間を抜けるたび、龍の身体に反射した光が青白い軌跡となって尾を引いた。
前を向いたまま、種男が声をかける。
「怖くない?……いや、竹娘さんが怖いわけないか、こんなの」
竹娘は小さく呟いた。
「うん…」
そして次の瞬間、
風切り音をかき消すほどの大声で――どこか甘えた響きを混ぜながら叫ぶ。
「……いや、めっちゃ怖ーい!!
このままだと……
落ちちゃうよーーー!!」
そう言うなり、
竹娘は勢いよく種男の背中に抱きついた。
その抱きつき方は、
“落ちないため”にも見えるし――
“落ちていく自分をごまかすため”にも見えた。
その瞬間、
種男の胸の高鳴りに呼応するように、龍がふわりと高度を上げる。
空気が澄み、遠くの地平線がゆっくりと白み始める。
竹娘はその光を見つめながら、小さく息を吸った。
「……きれい」
龍の背で、二人はまだ誰も知らない朝を迎えに行く。
夜明け前の空を裂きながら、龍は静かに、しかし確かな軌跡を描いて
可染の住居へ向かっていった。
不死山(ふじさん)の影
龍が雲を割って進むと、巨大な山影が夜明け前の空に浮かび上がる。
種男の心の声。
(不死山……
平安京の最高権力者が、かぐや姫から与えられた“不老不死の薬”を
焼き捨てた場所と伝えられる、この国の霊峰……
まさか、こんなところに来ることになるなんて)
竹娘は後ろでワクワクしている。
11月8日(土)
可染宅前に到着
不死山の麓に展開される、夕星重機製作所・マザー工場。
その横に建つ、場違いなほど立派な和風豪邸。
門の前に――可染が待ち構えていた。
可染「残念だ少年。
貴様の料理……もっと食いたかったぜ」
(※完全に悪役のセリフなのに、動機が“料理”)
小声で竹娘に話しかける種男「日付変わったばかりなのに門の前に、、、どうしたのかな?」
竹娘「さぁ、聞いてみる?(待ち伏せされてたんだよ、多分。)」
鬼乃子、奇襲
ヒュッ!
空気が裂け、鉤爪付きの鞭が蛇のように伸びる。
鬼乃子「失礼します」
竹娘が種男の前に飛び出し、素手で鞭を弾く。
ガキィン!
火花が散り、竹娘の腕に浅い傷が走る。
鬼乃子は無表情のまま、しかし声だけは丁寧に。
鬼乃子「あの剣は小粒さんの家に置いてきたようですね。
ここで……引いてはくださいませんか?」
可染「問答無用!その二人を討て!!」
鬼乃子の目が一瞬だけ死んだ魚のようになる。
鬼乃子(心の声)
(……はぁ。やっぱり言うと思いました)
タケノコ vs キノコ
竹娘の足元が一瞬だけ沈む。
次の瞬間――
シュッ!土煙が上がり、竹娘の姿が鬼乃子の真横に現れる。
鬼乃子の瞳がわずかに揺れる。
鬼乃子「速……っ!」
即座に肘を畳み、竹娘の脇腹へ鋭いフック。
ゴッ!
竹娘の身体がわずかに浮く。
竹娘「痛ったー!」
可染「フハハハ!鬼乃子は無敵!」
鬼乃子(棒読み)
「可染様にお仕えするのが……私の使命ですから」
(めっちゃ嫌そう)
鬼乃子の鞭が四方八方から襲いかかる。
まるで複数の蛇が同時に噛みつくような軌道。
竹娘は後退しながら、足先に淡い光を宿す。
竹娘「神通力・脚部強化……っと!」
バシュッ!
蹴りの軌跡が光の弧を描き、
鞭を次々と弾き返す。
鬼乃子の表情がわずかに険しくなる。
鬼乃子(心の声)
(……遠距離戦を決め手に出来ないとなると厳しいですね)
竹娘が一気に距離を詰める。
竹娘「遠くより近くが、守りより攻めが得意でして(テヘ)」
鬼乃子は鞭を捨て、拳を構える。
鬼乃子「奇遇……私もです」
二人の姿が残像のように交差する。
バッ!ババッ!ガッ!
竹娘の回し蹴りと、鬼乃子のショートフックがぶつかり合い、衝撃波が地面を割る。
可染は震えながら叫ぶ。
可染「な、何やってるんだ!そのコムスメを右から上手く何とかしてその、さっさと倒せ!」
鬼乃子は竹娘から目を離さず怒鳴る。
鬼乃子「チビは黙っててください!!!」
可染「な、何だとお!」
—
キャット・ファイト
竹娘の蹴りが鬼乃子のガードを割り、鬼乃子のボディが竹娘の腹に刺さる。
二人は互いの腕を掴み合い、地面を転がりながらの乱打戦に突入。
互角に見えるが、竹娘には余裕があり、鬼乃子は息が上がっている。
ドガッ!バキッ!ズザザザッ!
可染は涙目で叫ぶ。
可染「うわああん!鬼乃子が防戦に……!
いかん、石笠!最終兵器を起動せよ!!」
石笠は敬礼しながら走る。
石笠「アイアイサー!!」
浅間大獣機、暴走
工場最深部へ走る石笠。
そこには建造中の巨大兵器――
薄暗い巨大ハンガーに、未完成の巨体――
浅間大獣機(あさま・だいじゅうき) が鎮座していた。
全長50メートル。重量25,000トン。
装甲は未塗装のまま銀色に光り、ケーブルが無数に垂れ下がっている。
石笠が操作盤に飛びつく。
石笠「よーし……最終兵器、起動す――」
指がボタンを押した瞬間、石笠の顔が青ざめる。
石笠「あっ……やべえ。
安全装置外す前に……
カタパルト射出起動ボタン押しちゃった……!」
警告灯が一斉に赤く点滅。
警告音「ピーピーピー!! 射出準備開始!」
石笠「インターロック組んでないよおおお!!
控えめに言って私もイカれておりましたあああ!!!」
巨大なカタパルトが唸りを上げる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
浅間大獣機の足元が震え、未完成の巨体が前のめりに傾く。
石笠「倒れる倒れる倒れる倒れる!!」
次の瞬間――
ドォォォォォォォン!!!!
カタパルトが暴発し、浅間大獣機が“前転しながら”射出される。
バッタン!ゴロゴロゴロゴロ!!
巨大ロボが工場内を転がり、壁を破壊し、配管を引きちぎり、火花が滝のように降り注ぐ。
石笠「ぎゃあああああああああ!!!
なんで前転してんの!?
ロボットって前転するの!?!?」
浅間大獣機はそのまま和風豪邸の庭に突っ込み――
ドガァァァァァァン!!!!
巨大な火柱が夜明け前の空を照らす。
爆風が敷地全体を飲み込み、竹娘・種男・可染・鬼乃子・石笠、全員が吹き飛ばされる。
可染「ぎゃあああああああ!!!
工場がああああああ!!!」
浅間大獣機の爆発で、豪邸も工場も、庭の松も、全部まとめて吹き飛んだ。
煙の中で、可染は膝をつく。
可染(心の声)
(……終わった。
俺の工場……俺の豪邸……
俺の世界征服の夢……)
瓦礫の山を見つめながら、可染の脳裏に走馬灯のように“夕星重機の歴史”が流れ始める。
可染(心の声)
(創業82年……
徹夜で図面引いた日々……
KISARAと鬼乃子を創造し…
社員旅行(3人)で行った淡路島……
石笠が勝手に買った高級コーヒーメーカー……
全部……全部……)
鬼乃子が土まみれで近づく。
鬼乃子「良かったですね。
受注残、ありませんから。 既存案件分、もう出荷済みですし」
可染は涙目で振り返る。
可染「そ、そうか……それだけは良かった
……いや、そうじゃないだろ!?
俺の家は!? 俺の庭は!?
俺の盆栽は!?
“松風(しょうふう)くん”はどこ行った!?」
鬼乃子は瓦礫の中から黒焦げの盆栽の鉢を拾い上げる。
鬼乃子「……これですか?」
可染「松風くーーーん!!!」
その場に崩れ落ちる可染。
石笠がヨロヨロと現れる。
石笠「控えめに言って……
私もイカれておりました……(二回目)」
可染は涙を拭きながら叫ぶ。
可染「お前のせいだよ!!!
いや違う、俺が指示したんだ……
いやでもお前が起動したんだ……
いやでも俺が最終兵器なんて作らせたのが……
あああああああ!!!
誰かのせいにしたい
せいにしたいのに
俺の顔しか浮かばんのだ!!!!!!」
鬼乃子はため息をつく。
鬼乃子「……可染様。石笠様1人を責めないのはご立派です。
とりあえず、深呼吸を」
可染は大きく息を吸い――
可染「スゥゥゥ……
……ハァァァ……
……工場返して」
鬼乃子
「無理です。
とはいえ これまでの蓄財のおかげで再建は可能です。まあ、2年ほどかかってしまうと思いますが。」
可染
「…2日は無理?」
竹娘は服をパタパタしながら立ち上がる。
竹娘「……世界最高峰の科学技術じゃない!?なんか、すごいの見た」
その時、種男が財布を差し出す。
種男「あ、これ。うちの店に忘れてたあなたの財布です。
また来てくださいね。割引券、入れておきました」
可染は爆発の煙の中で固まる。
可染「……えっ?
……財布?
……あ、ありがとう?」
鬼乃子と石笠が同時に思う。
((何この空気……))
京都への帰路
鬼乃子が深々と頭を下げる。
鬼乃子「あの……この度は色々と申し訳ござません。
京都までお送りさせてください。」
邸宅地下のハッチからミニバンが現れる。
“非常用車両”と印字されているのが何とも切ない。
種男・竹娘「よ、よろしくお願いします」
続いて可染と石笠も乗り込む。
鬼乃子「なんであなた達も来るんですか!!!」
可染「みんなで少年の料理食べようよ」
竹娘はシートに沈みながら、小さく笑う。
竹娘「……なんか、今日いろいろあったね」
種男も笑う。
種男「はい。
でも……楽しかったです」
ミニバンは静かに走り出し、なよ竹へ向かっていった。
最後の夜?
同じ布団で寝る前の竹娘と種男
布団に入った二人。
竹娘は種男から少し距離を置き、気をつけの姿勢で天井を見つめていた。
静かな夜気の中、種男がぽつりと呟く。
種男「僕……今まで友達いなくて。 この一週間……ほんとに、ありがとう」
竹娘は一瞬だけ目を丸くし、すぐに柔らかく笑った。
竹娘「大丈夫。
異星人とも仲良くなれたんだよ?
マロ君とも……きっと仲直りできるよ」
言葉は軽い。でも声は優しかった。
竹娘は、
“これ以上近づいたら戻れなくなる”
そんな気がして、距離を取っていた。
種男は気づかないまま、
静かに目を閉じる。
竹娘は、眠れないまま天井を見つめ続けた。
—
11月9日(日)
別れの朝
まだ薄暗い早朝。
街灯の光が白く滲む時間帯。
種男は竹娘を、公務先である輝夜文化ホール近くまで送ってきた。
なよ竹からそう遠くない場所。
建物の前で、竹娘は立ち止まる。
言いたいことは山ほどある。
でも――言えない。
竹娘「……じゃあ、ここまででいいよ」
種男「……うん。
また……会えるよね?」
竹娘は笑う。
けれど、その笑みはどこか寂しげだった。
竹娘「うん。
……またね」
沈黙。風の音だけが二人の間を通り抜ける。
竹娘は、
どうやって“さよなら”を言えばいいのか分からなかった。
本当は、
“また会いたい”
“離れたくない”
そう言いたかった。
でも言えば、泣いてしまいそうで。
だから竹娘は、俯いたまま、そっと背を向けた。
歩き出した瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
(……これでいい。
これでいいんだよ、私)
そう自分に言い聞かせながら、竹娘は振り返らずに歩き続けた。
ルナルナ王のヒノモト訪問公式行事
ヒノモト内閣83代総理大臣・番長漁太郎、
京都府長・典庫嫦娥(のりこ じょうが)との挨拶と公式会談。
京都府は“かぐや姫ブランド”での新たな観光戦略を考えていた。
そしてヒノモト政府は、娯楽産業の提携先にコムニア星州連邦ではなくルナルナを選んだという。
「輝夜文化ホール」
輝夜文化ホールの大会議室。
長いテーブルを挟んで、ヒノモト側とルナルナ側の代表が向かい合って座っている。
中央にはルナルナ王。
その右隣に、竹娘が静かに控えていた。
竹娘は姿勢を正し、公務中らしく一言も発さず、
ただ王の言葉を聞く役目に徹している。
だが、
その存在だけで場の空気がどこか柔らかくなる。
総理と府長の“おちゃらけ”
ヒノモト内閣総理大臣・番長 漁太郎(ばんちょう りょうたろう)が、書類をめくりながら笑いをこらえきれずに言う。
総理「いやぁ、ルナルナさんを選んだというよりですね…… コムニアさんの条件が厳しくてねぇ」
京都府長・オッキーナ・重蔵(じゅうぞう)が続ける。
府長「そうなんですよ。
“かぐや姫の国籍をコムニアに設定した現代舞台の映画を撮らせろ”
なんて言われても、京都の町おこしにならないじゃないですか〜笑」
総理が慌てて手を振る。
総理「今の発言はフィクションということで! 記者の皆さん、そこだけはお願いしますよ〜笑」
会場に小さな笑いが起きる。
竹娘は横目で王を見る。
王は微笑みながら、落ち着いた声で言う。
ルナルナ王「ヒノモトさんの特撮技術は、 他国では失われた技術と最新技術の融合ですからね。 我が国にとっても願ってもない機会です」
その言葉に、総理と府長は満足げに頷いた。
注目の的
ふと、府長が竹娘の方を見る。
府長「それにしても……
かぐや姫の末裔でいらっしゃる竹娘様が、 こうして京都に来てくださるなんて。
本当に光栄です」
竹娘は軽く会釈するだけで、言葉は発さない。
その控えめな所作が、逆に場の空気を和ませた。
府長は続ける。
府長「……あの、竹娘様。
もしよろしければですが……
京都を舞台にした映画に出演してみませんか?」
会場がざわつく。総理も「おいおい」と苦笑い。
竹娘は一瞬だけ固まった。
王も横目で「どう答える?」と視線を送る。
竹娘は小さく息を吸い、控えめに笑った。
“やんわり断り”
竹娘「私……信じられないくらい演技下手なんです。 学芸会では、いつも“木”の役でした」
一拍の静寂。
次の瞬間、会場がどっと笑いに包まれた。
総理も府長も肩を震わせ、ルナルナ王も珍しく声を立てて笑う。
府長「木……!
いや、それはそれで存在感がありそうですが……
無理強いはしませんので、いつでもお声がけくださいね」
竹娘は再び会釈し、
その控えめな笑顔が場をさらに和ませた。
本音に近い嘘
会談が終わり、ヒノモト総理、京都府長、ルナルナ王、そして竹娘が席を立つ。
ホールの扉が開き、一行はそのまま 一般公開の記者会見場 へと誘導された。
竹娘が通路に姿を見せた瞬間、
一斉にフラッシュが焚かれた。
記者A「月京家は今も国家武術指南役なんですか!?」
記者B「ヒノモトの印象を教えてください!」
記者C「京都入りはいつからですか!?」
政治家たちよりも、王よりも、竹娘に最も多くの注目が集まっていた。
それは当然だった。
かぐや姫の末裔という“象徴”は、政治よりも強い物語性を持つ。
竹娘は軽く会釈し、落ち着いた足取りで大ホールへと進む。
大ホールの観客席は、最前列に報道陣と文化関係者、その後ろに一般市民席が広がっていた。
その 最後尾の席 に――当日入場した種男の姿があった。
彼はただ、
「竹娘の姿をもう一度見たい」
その思いだけで足を運んでいた。
壇上に立つ竹娘に、記者がマイクを向ける。
記者「初めての京都入りはいかがですか?」
竹娘は一瞬だけ迷い、そして笑顔で答えた。
竹娘「実は……お忍びで数日前から来てて。
とっても美味しい料理のお店を見つけたんです。
また……会いに――
食べに行けたらって思ってます」
その瞬間、
竹娘はふと視線を上げた。
そして――
最後尾の種男と、ほんの一瞬だけ目が合った。
竹娘の脳裏に、種男との思い出が一気に流れ込む。
・竹林で出会った時
・笑顔、料理
・束の間の平和な日常
・夜の湖畔、龍の背
・抱きついた温もり
胸が、きゅっと締めつけられる。
(種ピー……
いつか素敵な恋人ができて、
私のことなんか忘れちゃうんだろうな)
竹娘は、誰にも気づかれないほど小さく微笑んだ。
種男は驚いたように目を見開き、すぐに小さく微笑み返した。
言葉は交わさない。
交わせない。
でも――
その一瞬で、二人は確かに心を通わせていた。
記者会見が終わり、王と竹娘が退場すると、大ホールは静寂に包まれた。
誰もいなくなった客席に、種男だけがぽつんと残っていた。
別国家の王室の人間。
もう会えないのだろうと悟る。
(竹娘さん……
いつか素敵な男性のものになっちゃうのかな)
そう考えると、ひどく胸が痛んだ。
種男は拳を握りしめ、
気丈に足音を響かせながら
輝夜文化ホールを後にした。
エピローグ
休日のなよ竹の昼下がり。
店内はいつも通りの静けさで、種男は仕込みの手を止めて、ぼんやりとテレビのニュースを思い返していた。
(……もう会えないんだろうな)
そう思った瞬間、店の扉が――
カラン……小さな鈴の音が鳴った。
種男は反射的に顔を上げる。
そこに立っていたのは――
竹娘だった。
少しだけ息を弾ませ、でも笑顔は柔らかくて、あの日よりもずっと綺麗に見えた。
竹娘「今日オフなんだ!」
その一言で、種男の胸が一気に熱くなる。
(……夢じゃない)
竹娘は靴を脱ぎながら、少し照れたように続けた。
竹娘「……来ちゃった」
種男は言葉が出ない。
ただ、胸の奥がじんわり温かくなる。
竹娘はカウンター席に座り、頬杖をついて種男を見つめる。
竹娘「ねぇ、種ピー。
私、あの日……ちゃんと言えなかったけど」
種男の心臓が跳ねる。
竹娘は視線を落とし、指先でカウンターをなぞりながら言った。
竹娘「……また会えて、嬉しい」
その声は、公務の時の凛とした声でも、戦っていた時の強い声でもなくて。
ただの――
一人の女の子の声だった。
種男は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら答えた。
種男「僕も……嬉しいです。 また来てくれて」
竹娘はふっと笑う。
竹娘「じゃあ……
今日も、美味しいもの作ってくださいますか?
“あの時みたいに”」
その言葉に、種男の胸がまた跳ねた。
(……ねぇ、種ピー。
私、ヒノモトに来てよかった。
あなたに会えて……ほんとによかった)
二人の間に流れる空気は、一週間前よりもずっと近くて、ずっと甘かった。
カウンター越しに、竹娘がそっと微笑む。
(……ただいま、種ピー)
その瞬間、種男は初めて気づいた。
(ああ…… この人がいないと、 僕の毎日はこんなに静かなんだ)
そして、胸の奥でそっと呟いた。
(……おかえりなさい)
…
……
………
…………
遥か昔――“文明破壊・救済を自作自演して英雄になったクソ野郎ども”がいた。
彼らは《CLUBエデン》という組織を作り、裏から歴史をこねくり回してきた。
それから数千年後――白銀歴1204年。 宇宙には、複数種の霊長類が築いた無数の宇宙都市国家が存在している。
しかし、その繁栄の裏で―― CLUBエデンから分離・増殖した団体や個人が、 金融・経済・軍事・政界・司法・教育・メディア・芸術のほぼ全てを掌握し、 自らの存在を隠したまま暗躍していた。
“世界は、とうの昔に乗っ取られている”。
そんな世界で―― 竹娘と種男の出会いが、静かに、しかし確実に世界を動かし始めようとしていた。
「竹取合戦」完
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