本章ノ壱『昔醒の兆し』編 二節「Battle of Besitiarium」
遥か昔――“文明破壊・救済を自作自演して英雄になったクソ野郎ども”がいた。
彼らは《CLUBエデン》なんて組織を作り、裏から歴史をこねくり回してきた。
それから数千年……宇宙は見た目こそ平和だが、裏では相変わらず誰かが何かを企んでいた。
“世界は、とうの昔に乗っ取られている”。
そんな世界で、この物語は―― とある辺境惑星の片田舎から始まる。
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本章ノ壱 昔醒の兆し 編
二節 Battle of Besitiarium
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ベスティアリウム
ベスティアリウム――
ルナルナ領内の少惑星《アドレナ》に存在する、
ウラガネビト「鷹栖太郎(本名:ウルク・ニマン)」の私邸。
表向きは化粧品業界の社交場。
しかし実態は、違法コピー品の生産工場であり、さらに裏では、生体兵器“魔物”の製造・売買が行われている。
敷地の地下には、古代帝国のコロッセオを模した巨大な闘技場がそびえ立つ。
各国から誘拐された“生贄”を魔物と戦わせる興行が日常的に行われ、
観客席は場内から丸見え――
「勝者は存在しない」という絶対的な自信の象徴だった。
施設全体にはAI監視網、自律兵器、生体センサーが張り巡らされ、
侵入者が生きて帰る可能性は限りなくゼロに近い。
――その地獄に、今まさに三人の“獲物”が連れ込まれようとしていた。
三人の生贄たち
竹娘は、偽の羽織も、寝待太刀のレプリカも、携帯端末もすべて剥ぎ取られた。
(もちろん、端末には“取られる前提”で偽の王室スケジュールを仕込んである。)
残されたのは、制服の短パンとワイシャツ、リボン。素足に手枷、そして顔を覆う頭巾。
――完全に“無力な少女”としての姿。
闘技場へ押し出されると、そこには竹娘を含む三人の頭巾姿の生贄と、手品師が使うような不気味な箱が置かれていた。
司会の甲高い声が響く。
「みなさん、お待たせしました!生贄の解体ショー……ではなく、魔物とのバトルの始まりです!」
観客席から歓声と笑いが飛ぶ。観客への事前案内では、生贄の詳細は伏せられているらしい。
「それでは、生贄たちのご紹介です!」
最初の頭巾が剥がされる。
「まずは、ルーシア帝国の大人気グラビアアイドル、ブリコ・モニトゥちゃん!
全世界の少年たちが彼女のボディに釘付けだったことでしょう!」
歓声が爆発する。
司会は続ける。
「なんと!
ブリコちゃんをここへ送るよう我々にコンタクトを取ってきたのは、芸能事務所に勤める実の姉!
妹の美貌に嫉妬したのか、はたまた大金が欲しかっただけなのか……いやぁ、家族って怖いですねぇ」
ブリコはその場に崩れ落ちた。震えが止まらない。
二人目の頭巾が剥がされる。
「続いては、アルビオニア国籍の大学生、ローズ・マリガンちゃんです。
誰かに似ているな? そう思ったあなたはお目が高い!」
観客がざわつく。
「この子、当時56歳の王配と19歳の舞台女優リディアさんとの間に生まれた、アルビオニア王室の忌子なのです♪
そんな出自、消したい人がいるのも当然ですよねぇ♪」
ローズは震える声で呟いた。
「そんな……お母さんは……お父さんは死んだって……学生時代からの付き合いだったって……」
観客が嘲笑する。
「リディアはどうしたー!」
「俺、あいつのファンだったんだよ!」
「母娘セットで見たかったのになー。料理するのはそっちの係だけどよ」
司会は肩をすくめた。
「皆様、事前のご案内では“母娘セット”をお届けする予定でしたが……
残念ながら、母親のリディアさんは連れて来られませんでした。」
「はぁ?」「楽しみにしてたのに!」
司会は軽く笑う。
「いやぁ、あの……リディアさん、思ったより暴れましてね。
実行犯の方々も“商品”を傷つけないように頑張ったんですが……
娘を庇って抵抗してくるもので。ああいうの、困るんですよねぇ。効率が悪くて。」
箱の蓋が開く。
中には、もはや“人の形”を留めていない何か。ローズは喉が裂けるほどの悲鳴を上げた。
「いやあああああああ!!お母さん!! お母さん!!」
観客はその悲鳴すら娯楽として笑った。司会は淡々と告げる。
「母親の愛って、ほんと迷惑ですよねぇ。おかげで予定が狂ってしまいました。」
司会が手を叩く。
「その代わりと言っては何ですが、特別商品をご用意いたしました。
何か制服姿のようですが……もう分かった方は、相当なマニアですねぇ。」
三人目の頭巾が剥がされる。
「今年9月、彗星のように現れた―― ルナルナ王室の近衛騎士、月京竹娘ちゃんです!」
観客が沸き立つ。
「ブリコちゃん、ローズちゃんに比べて色気と乳は全然足りませんが……まあ、スタイルは悪くないですね。
最期にどんな声で鳴いてくれるのか、楽しみです。」
竹娘「💢」
竹娘(心の声)「……制服のまま戦わせるとか、趣味悪すぎでしょ」
司会が手を広げる。
「さて、戦いに出る順番を、本人に話し合って決めてもらいましょう!」
観客が笑いながら囁き合う。
「この時間好きなんだよなー。みんな行きたくないって喚くのが面白くてよ」
「行きたくないって、逝きたくないのダジャレじゃね?」
「先週の男なんか親友を突き出してて笑ったわ」
司会
「本番開始は15分後です。あ、それまでにアンケートのご回答をお忘れなく!」
観客席のあちこちで端末が光り始める。
画面には、各国の少年少女の顔写真、年齢、プロフィール。
「難易度」「成功報酬」「人気度」の数値。
――得票数が高かった子が、次に誘拐される。
「この子可愛いじゃん。連れてこいよ」
「こっちはスタイル良いな。来週見たいわ」
「誘拐成功したらポイント入るし」
ブリコは姉の裏切りを聞いた瞬間、震えが止まり、表情が消えた。
「……嘘。嘘だよね……?お姉ちゃんが……私を……?」
ローズは母の遺体を見た瞬間、崩れ落ちた。
「いやあああああああ!!お母さん!! なんで……!」
観客の笑い声が、二人の心をさらに砕く。
「……助けて……誰か……もう……いや……」
絶望の沈黙が落ちた。
竹娘はそっと二人の肩に手を置いた。
「ローズちゃん、ブリコちゃん。大丈夫。私を信じて見ててね。」
二人は涙の中で竹娘を見上げる。
竹娘は小さく微笑んだ。
「……ねえ、二人とも。私、こう見えて“ちょっとだけ”強いんだよ。だから大丈夫。ここから先は、私に任せて。」
震える手を握り返す。
「大丈夫。私、こういうの得意だから。」
その言葉は、絶望の底に落ちていた二人の心に、ほんの少しだけ光を灯した。
司会
「それではショーを開始します!!お三方、戦いに出る順番は決まりましたか?」
竹娘は毅然と手を挙げた。
観客が嘲笑する。
「はあ? 正義の味方にでもなったつもり?」
「まさか魔物に勝てる気でいるんじゃね?」
「儀典官のお遊びじゃねーんだぞ!」
「あー、早くやられるとこ見たい」
「今回は原型残してほしいよな」
――その瞬間、竹娘の脳裏に、任務説明の光景がよみがえる。
