本章ノ壱 一節「竹取合戦」(改稿中)

遥か昔――“文明破壊・救済を自作自演して英雄になったクソ野郎ども”が裏から歴史をこねくり回してきた。
それから数千年……宇宙は見た目こそ平和だが、裏では相変わらず誰かが何かを企んでいる。

これは、そんな世界で父の死の真相を追う少女が、
料理店の少年との出会いをきっかけに、世界を覆う巨大な嘘へ近づいていく物語である。…多分。

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 本章ノ壱 昔醒の兆し 編
      一節 竹取合戦

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第一幕 竹林に降る星

第一項 Boy Meets Girl

白銀歴1204年11月1日(土) 22:16
惑星テラ=プレアデス テラ連合圏 島国ヒノモト 京都府
料理店《なよ竹》横の竹林 上空一キロメートル

月京 竹娘(つきのみや たけのこ)は操縦桿を握りしめ、深くため息をついた。
警告灯が赤く明滅している。操縦桿を引いても、宇宙船の落下角度はほとんど変わらなかった。
「……運転してみて気づいたけど、オーバーホールの時に減速機能不全を潰し忘れたみたい」
眼下では、夜の竹林が凄まじい速さで迫ってくる。
「参ったね、どうも(ノ∀`) 垂直落下して大破しないことに賭けよう」

数秒後、宇宙船は墜落に近い角度で地面へ突っ込んだ。
竹林を揺らす轟音とともに、土煙が高く舞い上がる。機体は地面を削りながら進み、ようやく停止した
ひしゃげたハッチを内側から押し開け、竹娘は煙の中を這い出した。
「げほっ、げほっ……し、死ぬかと思った……」

すぐ目の前に、少年が尻もちをついていた。
手には鎌を握り、足元には筍の入った籠が転がっている。

少年の背後には、半透明の龍が浮かんでいた。
竹娘は目を細めた。
淡い光をまとった長い身体が、少年を守るように周囲を巡っている。幻影にしては存在感があり、生物にしては輪郭が曖昧だった。

「ごほっ、ごほっ……し、死んだかと思った……」

二人の視線が合った瞬間、龍は光へ溶けるように消えた。
少年は我に返ったように立ち上がり、服についた土を払う間もなく頭を下げる。

「ぼ、僕、小粒 種男(こつぶ たねお)と申します……! あの、お怪我はございませんか?」

危うく宇宙船に巻き込まれるところだったというのに、最初に竹娘の怪我を心配している。
(なんて親切なこの子なの…この子、ただ者じゃない……
 ……そしてこの子、め、めっちゃかわいいーーー)

竹娘は立ち上がり、土のついた手を服で軽く払った。
「うん、大丈夫。こちらこそ殺しかけてごめんなさい。
 私は竹娘、月京 竹娘。よろしくね、種男くん。」

種男は竹娘を見上げたまま、しばらく瞬きを忘れていた。
(なんて誠実な人なんだ…この人、ただ者じゃない……
 ……そしてこの人、す、すごくキレイーーー)
やがて自分が見つめていることに気づいたらしく、慌てて視線を逸らす。耳が分かりやすく赤くなっていた。

竹娘は種男の反応をひと呼吸だけ見届け、気持ちを龍へと切り替えた。
種男からは神通力を使った形跡が感じられない。何かを隠している余裕があるようにも見えなかった。
ただの少年ではない。少なくとも、竹娘の知る「ただの少年」ではなさそうだった。

「あの……さっきの龍は?」
竹娘が尋ねると、種男の肩が跳ねた。

「えっ……あ、はい。気のせいです。あの……み、見なかったことにして、ください」
竹娘は黙って種男を見つめた。

嘘が苦手なのだろう。視線が分かりやすく泳いでいる。
それでも、神通力を隠している気配はない。本人にも制御できない力なのか。
それとも、竹娘の知らない仕組みで現れたものなのか。

問いを重ねようとした、その時だった。

ぐぎゅるぅびぃ。

竹娘の腹が、竹林の静けさを台無しにするほど大きな音を立てた。

「……あっ」
竹娘は反射的に腹を押さえた。

種男は一瞬目を丸くした。けれど笑いはしなかった。
「あの……お怪我もされているみたいですし、よかったら簡単な手当てと、ご飯はいかがですか?」

そう言って、竹林の隣に建つ古い木造の店を示す。

「料理店《なよ竹》です。僕がやっている店なんです
 あの……お怪我もされてるみたいですし……
 よかったら簡単な手当てと、ご飯、食べていきませんか?
 へ、変なこと……しませんから」
竹娘は店と種男を見比べた。

見知らぬ相手を、事情も確かめず店へ招くらしい。親切というより無防備ではないだろうか。
悪意のある人間に目をつけられれば、簡単に利用されてしまいそうだ。

もっとも、竹娘にとってはありがたい申し出だった。

墜落した宇宙船は、すぐには動かせない。今夜の宿泊先も決めていない。
それに、この少年と先ほどの龍について、もう少し確かめておきたかった。

決して食事につられたわけではない。
少なくとも、それだけではない。

竹娘は姿勢を正し、大げさに敬礼した。

「よろしくお願い申し上げます!」

種男は再び目を丸くしたあと、緊張のほどけた顔で小さく笑った。

第二項 かぐや姫の再来

閉店後の《なよ竹》には、出汁の香りと静かな夜気が漂っていた。

種男に手当てをしてもらった竹娘は、差し出された料理を次々と平らげていった。
普段はどちらかといえば小食だ。
それでも今夜ばかりは、箸が止まらない。
墜落の緊張が解けたからなのか、単純に料理がおいしいからなのか、おそらく両方だった。

最後の一口を飲み込み、竹娘は満足げに息をついた。
「……生き返った。ありがとう。種ピーはヒノモト一、いや、世界一の料理人だね」

「種ピー……?」
種男は困惑したように自分を指さした。

「うん。タメ口でいいよ、種ピー」
「わ、分かりました。努力する……」

種男は照れたように笑い、空になった皿を重ねた。

その時、店内のテレビから聞き覚えのある国名が流れてきた。
画面では、ルナルナ王室のヒノモト来訪が報じられている。
王室の正装が映るたび、種男の視線がテレビと竹娘の羽織を行き来した。

やがて種男は、探るように口を開いた。
「……竹娘さんは、ヒノモトへ何をしに来たの?」

まだ敬語が抜け切っていない。竹娘は箸を置き、にこりと笑った。
「ねえ、種ピー。かぐや姫って知ってる?」

「う、うん。御伽話で読んだことがある。平安京に現れた悪魔の軍勢を倒して、ヒノモトを守った月京家の戦士だよね」

「それ、実話をかなり都合よく歪めた話なんだよ」

竹娘は羽織の胸元を指でつまみ、そこに刻まれた紋章を種男へ見せた。
腰に下げた太刀にも、同じ紋が刻まれている。

「かぐや姫はヒノモトを守った英雄じゃない。実際は、ルナルナによる侵略に加担していた悪党なんだ」

真相ではない。

竹娘が読んだ記録にも、かぐや姫の任務の全容までは残されていなかった。
だからこれは、目の前の少年がどこまで人を信じ、どんな反応を返すのか確かめるための、少し意地の悪い作り話だった。

「それで私は、その血筋と意思を継ぐ者ってわけ」

言い終えたところで、テレビ画面が切り替わった。

《一週間後、ルナルナ王ヒノモト来訪》
《月京家の特使、かぐや姫ゆかりの地へ》

画面には、竹娘の羽織と同じ紋章が大きく映し出されていた。

「えっ……」

種男の顔が固まった。
テレビと竹娘を何度も見比べている。竹娘の冗談を、どうやらそのまま信じてしまったらしい。
予想どおり、疑うことに慣れていない。

竹娘は口元をつり上げた。
「来週が楽しみだね、種ピー」

種男は笑わなかった。
視線を落とし、重ねた皿の端を指で押さえている。

その表情に浮かんだ不安を見て、竹娘の胸に小さな引っかかりが残った。

少し、からかいすぎただろうか。
けれど、今さら冗談だとは言い出しにくい。

竹娘は何事もなかったように湯呑みへ手を伸ばした。

第三項 (最)初(の)夜

種男は視線を伏せ、黙り込んだ。
先ほどまでとは明らかに空気が違う。どうやら竹娘の作り話を、そのまま信じてしまったらしい。

少し、からかいすぎたかもしれない。

もっとも、竹娘は謝る代わりに話題を変えた。
「で、そのついでと言ってはなんだけど……今日、泊めてくれないかな?」

「えっ?」
種男の声が裏返った。

竹娘は両手を合わせ、瞳を潤ませてみせる。
「よぅよぅ、今から宿を探すのは大変でしょ? 種ピーは、行き場のないか弱い女の子を一人で夜の京都へ放り出したりしないよなっ?」

自分で言っていて、なかなか強引だと思う。
公務で来ておきながら宿泊先を決めていない。その一点を指摘されるだけで、竹娘の負けだった。

質問されたら、ごまかす。
追及されたら、宇宙船へ戻る。
それでいこう。

種男は困ったように目を泳がせ、二階へ続く階段を振り返った。
「は、はい……。この建物、居抜きでして、二階が僕の住居なんです」

どうやら勝ったらしい。
竹娘は飛び上がりたい気持ちを抑え、厳粛な顔で頭を下げた。

「ご厚意、痛み入ります」

しかし、声の弾みまでは隠せていなかった。

第二幕 星影の策謀

白銀歴1204年11月1日(土) 23:00
惑星テラ=プレアデス テラ連合圏 島国ヒノモト 静岡県
不死山麓 株式会社夕星重機製作所 マザー工場内・秘密司令室

株式会社夕星重機製作所。

表向きは、従業員五十名、年間売上五十億円規模の地元優良重機メーカーである。

しかし、マザー工場の奥には、会社概要にも工場案内にも載っていない鋼鉄の扉があった。
重い軋みを響かせて扉が開き、薄暗い司令室に灯りがともる。
壁一面のモニターには、宇宙航路、軍事衛星、各国のニュース映像が所狭しと並んでいた。

この部屋こそ、今どき本気で「世界征服」を目指す自称悪人と、その部下二名が拠点とする秘密基地だった。

「一週間後……よりにもよって、あのルナルナ王が、オレ様の領土へ来るだと?」

中央の椅子に腰掛けた男が、頭を抱えた。
鋭い眼差しに、逆立った髪。長いコートの上からマントまで羽織った、やけに華々しい装いである。
身長は百四十五センチほど。小柄な体格とは対照的に、その態度だけは司令室の誰よりも大きかった。

男の名は、夕星 可染(ゆうつづ かぜん)。

見た目こそ青年だが、平安時代から千二百年以上を生き続ける不老不死の存在である。

その隣では、秘書の珠村 鬼乃子(たまむら きのこ)が無言で溜息をついた。銀髪の間から伸びる黄金の角が、モニターの光を鈍く反射する。

(あなたの領土ではございません。そもそも固定資産税も払ってません。)
可染が「オレ様の領土」と呼んだ土地について、鬼乃子は言葉にして訂正をしなかった。
今それを指摘すれば、話が余計に長くなるだけと分かっていたからだ。

白と濃紺を基調とした衣装にも、その立ち姿にも乱れはない。上司がどれほど取り乱しても、鬼乃子まで付き合う義理はなかった。

その代わり、司令室の隅では、丸眼鏡をかけた白髪の老研究者が目に見えて震えていた。
「か、閣下……想定外の事態です。ルナルナの特使だけが、すでにヒノモト入りを……」

アオオニの研究者、調 石笠(つきの いわかさ)は、実験器具を握ったまま中央モニターを指した。

画面には、煙を上げる宇宙船と、ひしゃげたハッチから這い出してくる少女の姿が映っている。

可染は椅子から跳ね起きた。
「はぁぁ!? なんで勝手に来てんだよ! 許可は!? 手土産は!? 行き先はどこだ!」

ヒノモトへの入国許可なら、当然取得しているはずである。一方、ルナルナ特使が可染へ手土産を用意する理由は、どこにもなかった。
鬼乃子は何も言わず、石笠へ視線を送った。説明を急がなければ、可染の質問はさらに増える。

「京都府です。料理店《なよ竹》へ向かったようで……」

可染の顔色が変わった。
「み、深雪ちゃんの店!?」

中央モニターへ詰め寄り、画面に映る竹娘を指さす。
「やばい! 絶対、アレを奪いに来たんだ!」

「アレとは、何でしょうか?」

鬼乃子が尋ねると、可染は口元へ手を当てた。
「アレはアレだ! 丸くて、五色に光っていて……いや、違ったか? もっとこう、細長かったような……」
「覚えていらっしゃらないのですね」
「大事なものだってことは覚えてる!」

鬼乃子と石笠は、そろって口を閉ざした。
大事だということ以外、何も覚えていないらしい。

可染はしばらく宙を睨んでいたが、やがて考えることを放棄したようにマントを翻した。
「まあいい! とにかく明日、《なよ竹》へ向かうぞ!」
「ルナルナ特使の目的を確認するためですか?」
「それもある!」

可染は胸を張った。
「腹も減ったし、深雪ちゃんにも久しぶりに会いたい!」

今度は、鬼乃子だけでなく石笠も目を伏せた。
大伴深雪は、すでに亡くなっている。
可染が「久しぶり」と言っている間に三回忌も終わり、現在は深雪の養子だった少年が《なよ竹》を継いでいた。
その事実は、これまでにも何度となく可染へ説明されている。

鬼乃子は何か言いかけたが、結局、端末を開くだけに留めた。

「鬼乃子、どうした?」
「いいえ。明日の予定を確認していただけです」

鬼乃子は《なよ竹》への訪問予定を追加した。

可染の記憶が長すぎる人生によって損なわれたのか、それとも単に人の話を聞かないだけなのか。
その答えを知る者は、この司令室にはいなかった。

もっとも、鬼乃子にも訪問へ反対する理由はない。
「私も同行いたします」
「おう! やっぱりお前も特使が気になるか!」

鬼乃子は、肯定も否定もせず微笑んだ。
《なよ竹》の料理が絶品であることまで、わざわざ説明する必要はなかった。

第三幕 なよ竹の一週間

第一項 にぎやかな食堂

翌日。
白銀歴1204年11月2日(日) 07:21

開店準備をしながら、種男は昨晩の出来事を思い返していた。

「ほぼ一睡もできなかった……」

「僕の服を着て、惜しげもなく腹と脚を露出させてる竹娘さん」
「謎の機材を僕の部屋で広げて何かやってる竹娘さん」
「唐突に ”しりとり” しよう って言ってきた竹娘さん」
「僕の布団に後から平気で入ってきた竹娘さん」
「僕を抱き枕にして寝始める竹娘さ――」

顔を覆って悶絶していると、店の扉が勢いよく開いた。
「おるぅぁ、女男! 唐揚げ定食特盛とチキン南蛮単品と煮卵六個、持ってこい!!」

五十守麻呂(いそがみ まろ)――ラッパーのような衣装を着た少年が仁王立ちしていた。
見た目は威圧的だが、仲間の前では“兄貴分になりたい”年頃の少年である。その背伸びが、だいたいトラブルの火種になる。

後ろには、改造学生服を着た倉持桜司(くらもち おうじ)が控えている。
見た目は完全にヤンキーだが、中身は義理堅くて面倒見の良い常識人。マロの暴走にツッコミを入れるのは、いつも彼の役目だった。

「おい、落ち着けって。やめろよ、お前の誤解だったんだから」
彼は種男に“すまん”とジェスチャーを送る。

竹娘に気づいたマロが、急に挙動不審になった。
「うはっ、Oh,ゴッデス! そ、そいつは……ちゃんと “女” なんだろうな?」

竹娘は首をかしげた。
「(ん? どういう意味?)処女です」

店内の空気が一瞬止まった。

竹娘(ん? 経験人数の話じゃないのかな……?)

結果としてボケ役になった竹娘はスルーされ、
マロは爆速で料理を平らげ、レジにぴったりの金額を叩きつける。
「お釣りはっ、要らねえぇええ!」

「うう……代金ぴったんこカンカン。お釣り、ございません……」
種男は半泣きで見送った。

竹娘は小声でつぶやく。
「……あの人たち怖。お友達……じゃないよね?」

「いつの間にか嫌われてて……」
種男は肩を落とした。

そのとき、店の扉が再び乱暴に開いた。
「つ、月京の末裔いいいい!!
 クソガキいいい!!
 このクソカップルめええ!!
 深雪ちゃんの店を……大伴(おおとも)の魂を……奪いやがったな!!」

夕星可染が、怒号とともに突入してきた。

竹娘(また変なのが来た(笑)……おおとも?)

「えっ!? 夕星さん、ち、違っ……!」
まただ。何度も説明したのに―― 種男は慌てて手を振る。

竹娘はぽつりと言った。
「カップル……この国でも“ツガイ”の意味ですか?彼はどうか分かりませんが、私は未経験です。」
……誰も反応しなかった。

鬼乃子は額に手を当て呆れ果てる。
(だから深雪さんは亡くなってて、この少年が今の店主だと何度も……。
 でも隣に居るルナルナ特使……彼女は本当に何しに来たんでしょうね。。。)

結局、可染はブツブツ文句を言いながらも、しっかり飯を食って支払いを済ませ帰っていった。

可染「次に来るまで、レシピは残して自首しとけ!」
石笠「あなたの料理は良質な化学変化の極みです……!」
鬼乃子「小粒さん、いつもゴメンなさいね。また食べたいので出禁はご勘弁を。」

竹娘はぽつりとつぶやく。
「種ピーの知り合い、面白い人達ばかりだね。
 
 あとさ… まだ開店時間になってないよね?」

第二項 継がれし店

白銀歴1204年11月2日(日) 22:10

竹娘は、京都府内で悪魔のカケラが原因となって伝説化したと思われる場所をいくつか調査し終え、再び《なよ竹》へ。
そして、ずうずうしくも夕飯をごちそうになり、せめてもの礼にと皿洗いを済ませて店内へ戻ってくる。

閉店後の《なよ竹》には、湯気の名残と出汁の香りがまだ漂っていた。
(いい匂い……。私なんて、焼いて塩をふるくらいしかしたことないし。たぶん、それは料理って呼ばないよね。)

自虐的にしみじみしている竹娘。静まり返った店内で、ただひとつだけ動かないものがあった。

――種男だった。

テーブルに突っ伏し、腕を枕にしてすぅすぅと寝息を立てている。
昨日からの疲れが一気に出たのだろうか。頬にかかった前髪が、微かに揺れていた。

竹娘はそっと近づき、ブランケットを肩にかけた。
「……お疲れ、種ピー」

種男が若くして《なよ竹》を一人で切り盛りしている――
ヒノモトでは、決して珍しいことではない。

この国は成人年齢が十五歳と早く、未成年に義務教育こそないものの、自治体の教育機関や公的支援を無料で利用できる。
生活面の支援も手厚く、保健所の審査に合格すれば、未成年でも飲食店の名義人となり、営業許可証を取得することができる。
世界的に見ても、かなり特異な制度だ。

それでも――
種男にとって、この店を守ることは、まるで彼の生活そのものを支える柱のように見えた。
もしそうだとしたら、彼はなぜここまで必死になれるのだろう。
そんな疑問が、ふと竹娘の胸に浮かんだ。

竹娘は足音を忍ばせ、店内を見回した。 厨房、倉庫、裏口。 そして階段を上がり、二階の住居へ。
昨日泊めてもらった種男を部屋を素通りし、古い木の匂いが漂う薄暗い廊下を進む。
壁には、色褪せた写真がいくつも飾られていた。

その中の一枚に、竹娘の足が止まる。

――種男と、年配の女性。

優しげな女性が、幼い種男の肩に手を置いて笑っている。

(……“封印指定文書”、千二百年前の“かぐや姫の活動記録”。
 ルナルナ政府は五つの“分類不能物質”を得るため、彼女を囮に京都へ別働隊を送り込んだ。
 その内回収された三つは悪魔のカケラで、何者かに引き渡された。
 本命だったらしい残り二つ――
 これは記録ごと破棄されていた。

 かぐや姫の宇宙船の航行記録には、この竹林があった。

 彼女を匿った老夫婦の私有地……のちに大伴家が買収し、千二百年守り続けたといわれる土地。
 末代の大伴深雪さんから……今は種ピーが継いでいる。
 ……偶然とは思えない。)

竹娘は写真を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……やっぱりダメだよね、こんなことしちゃ。」

自分の目的のために、種ピーの過去を勝手に探るなんて。彼の優しさに甘えて、踏み込んでいい場所じゃない。

竹娘は写真を元の位置に戻し、そっと微笑んだ。
「……明日、直接聞いてみよう。お店が終わったら、ちゃんと私の口から。」

そして何を思ったか、種男が寝ている店内まで戻り床に寝転がった。
(……あと、今日もこのまま泊めてもらおう。許可取ってなかったから…私もここで寝るね。)

第三項 居候志願

白銀歴1204年11月3日(月) 06:30 竹娘起床――

竹娘は目覚めた。種男の布団の中で。

(!? もしかして、運んでもらった!?全く気づかなかった。昨日もそうだったけど、何年ぶりだろう。熟睡してたの。)

種男「おはようございます。床に倒れてるんでびっくりしましたよ。ごめんなさい、宿泊先が分からず連絡出来てなくてー」

遮る様に竹娘が土下座をはじめた。
「あのぅ、泊めてください。一週間。お忍びで国王陛下より早く来たのに、宿取るの忘れてたんです(´;ω;`)…」

「わっ、土下座なんてやめてください。では、えっと、僕からも、お願いしますね。
 (何を言ってるんだ僕は。)
 あ、もしかして王族っていうの、ドッキリだったりします?」

「あ、ありがとう種ピー。王族じゃない、元々。王室の所属ってなら本当。一応ね。」

7:00 朝食準備――

種男がにんまりしている。
「滋賀県の御環湖(みわこ)から、と~っても美味しい鮭、ミワマスが入ってます。塩焼きでいただきましょう。」
「あ、ありがとう種ピー。(焼いて塩をふるだけでもしっかり料理なんだね、って うわ!)」

種男はまな板の前に立つと、表情がすっと職人のものへ変わった。
銀青の光を帯びたミワマスが置かれ、包丁が静かに入る。

刃は水を払うように滑り、 骨の際を通るたびに「しゃり」と小さく鳴った。
無駄のない手さばきで、ミワマスはあっという間に三枚におろされていく。種男は整えた切り身に塩をふり、軽く息をついた。

「はい、あとは焼くだけです。竹娘さんの好きな焼き加減でいきますね。」
「え…と、レア!!!」
「(レア? ……気持ちだけ受け取ります。)
 あ…外は香ばしく、中はふっくらするくらいにしますね。オススメです。」

竹娘は、焼き上がりを想像しながら、 朝食の準備が少し楽しみになっている自分に気づいた。
そして、ふと切り出した。
「その……タダ飯タダ宿っていうの、ちょっと気が引けてきまして。
 何か、お手伝いを……」

種男は手を止め、ふわっと柔らかい笑みを向けた。
「気にしないでください。竹娘さん、日中は何か調査されてますよね?
 そっちを優先してください。僕には言えない内容でしょうし。」
「う、うん。でも…」
「じゃあ――買い出しに一緒に来てくれませんか?
 食材によって、朝早かったり夕方だったりしますけど。」

(それ、実質私……何も手伝ってないけど)
竹娘は心の中で小さくつぶやきつつ、明るく声を出した。
「荷物持ちなら得意♪」

種男はくすっと笑った。
「はい。」

第四項 前哨戦

11:00 開店――

《なよ竹》の暖簾を揺らして、またあの声が飛び込んできた。
「おい!今日も監視しに来てやったからな!!」

種男は、ちょうど味噌汁をよそっていた手を止め、 にこやかに振り返った。
「今日も来てくださってありがとうございます。でも……確かお住まいは静岡でしたよね?」

「ふふふ……聞いて驚け、小粒よ!」

可染は胸を張り、どや顔で天井を指さした。
「この建物の上に、光学迷彩を施した飛行船を停泊させている!
 それを使えば静岡からでも十分で着く!
 どうだ、すごいだろう!」

「すごいですね!」 種男は素直に感心して目を輝かせた。

「そういえば……いつぞや、お連れさんが話してくださいましたよね。
 “鍛造A7075アルミブロックからの削りだしでも、絶対に羽折れしない高速回転タービンを作れるんだ”って。
 もしかして、それをお使いなんですか?」

可染「え? し、知らん。」
石笠がいないせいか、可染は一瞬で目をそらした。その背後で、鬼乃子が額に手を当てている。

カウンターの奥で、これから調査に出かけるために荷物を肩にかけた竹娘は、
ちょうど店から外にを出ようとしたところで、可染と種男のやり取りに出くわしてしまった。
(流体力学好きの私……絶妙に気になる話題!
 答えを知ってそうなお連れさん、今日は来てないみたいで残念。
 それにしても種ピー、この歳で働いてるのに教養あるんだ。どんな人生を歩んできたんだろう……)

竹娘は、ふと自分の幼少期を思い出す。
惑星トトのサピエンティア研究施設、ビルスタット居住区、そしてネザーランド家の道場――
好きなだけ学問と武芸に触れることが出来た日々。
自然に、楽しく、知識も腕っぷしも身についていった。

その記憶を、宇宙海賊として荒れ果てた国や地域を何度も見てきた経験と重ねて振り返る。
”あの時”までは、本当に恵まれた環境にいたのだと。
(……でも種ピーは違う。この子は、誰にも頼らず、自分で全部身につけてきたんじゃないかな……)

物思いにふける竹娘の姿が可染の目に映った瞬間、彼は条件反射のように悪態を吐いた。
「よぉ、ニセ月京ぁ、俺の目を欺けると思うなよ? おまえの影が動いたら即・殲滅モードだと思え。」

竹娘はまばたきもせず、そっと可染を見つめた。
(……私が月京家の出身ではないと知っている!?第六感が言ってる。タダの失礼な人じゃない……危険の匂いがする。
 ちょっと嫌な感じで煽ってみよう。)
「いわれなき侮辱です。背の小ささに反比例して、態度が大きくなりすぎているのでは?」

「んなっ! なん…だと(# ゚Д゚)」

可染が噛みつこうとした瞬間、その背後から鬼乃子が「はいストップ」と言わんばかりに、彼をかばうようにずいっと前へ出てきた。
「あなたこそ侮辱――いえ、低身長の方への差別的発言をお控えください。
 彼の態度の大きさや失礼すぎる言動の数々は、身長とは何の関係もございません。

 あくまで、彼個人の極めて矮小な人格ゆえです。」

竹娘と鬼乃子は周囲には火花を散らしたように見えたが、当人たちはむしろ落ち着いた顔で微笑み合い、そのまま自然に握手を交わした。

可染「ぉい!! フォローじゃないんかい! その握手どういう意味!?」

種男は味噌汁の柄杓を持ったまま右往左往し、半ばパニックになっていた。
更には可染と目が合った瞬間、「おい小粒! 昨日の日替わり定食を頼むぞ!」と理不尽にも怒鳴られてしまう。

種男「き、昨日の!? えと…申し訳ございません。今日はその具材が無くて、ですね。」

鬼乃子
(……可染様。ヒノモト語ができても、会話が成立していません。)
「本日の日替わり定食をお願いします。」

竹娘は三人の騒ぎを背に、今だとばかりに軽やかに暖簾をくぐった。
「行ってきマンモスー!」

鬼乃子
(……小粒さん、ルナルナ特使。微笑ましい間柄であって欲しいです、なんか……)

第五項 みゆき

20:00 閉店――

閉店後の《なよ竹》は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

厨房の片付けを終えた竹娘は、店内のテーブルに座る種男へと視線を向けた。
彼女は湯呑みを両手で包みながら、どこか言いにくそうに口を開いた。

竹娘は、昨日の可染からも「大伴(おおとも)」という名前が出ていたことが気になっていた。
「ねえ、夕星さんが言ってた“大伴さん”って……種ピーの家のこと?」

種男は少し驚いたように目を瞬かせ、 それから、ゆっくりと首を横に振った。
「えと……僕、家族のこと、何も知らないんだ。」

竹娘「……え?」

種男は、湯呑みをそっとテーブルに置いた。 その仕草は、どこか慎重で、どこか寂しげだった。
「僕はどこで生まれたのかも、誰が親なのかも分からない。物心ついた時には、深雪(みゆき)さんが僕を育ててくれてて……」

竹娘は息を呑んだ。
深雪――店の前の写真に写っていた、優しげな女性。
やはり彼女が大伴家最後の――

種男
「深雪さんは……僕が物心ついた頃には、もう“余命数ヶ月”って言われてたんだ。
 でも、そこから何年も一緒に暮らせた。
 僕にとっては……本当のおばあちゃんみたいな人だった。」

竹娘は言葉を失った。 彼の言葉は淡々としている様で、どこか寂しく、どこか痛々しく感じた。
(……学校にも行かずに看病してたんだろうな。)

「深雪さんが亡くなって……僕は店を継いだ。
 この土地をとても大事にしていたし、僕も料理が好きだったから。」

竹娘はその言葉に、胸の奥がざわつくのを感じた。
(……“この土地を”?……)

だが、竹娘はその疑問を飲み込んだ。 今は、彼の過去を静かに受け止めるべきだと思ったからだ。
「……そっか。深雪さん、大切な人だったんだね。」

種男は小さく笑った。
「はい。僕の全部をくれた人です。」

竹娘はその笑顔を見つめながら判断した。
(ここに来れば……かぐや姫文書を補完する情報が得られるかもと思ってた。
 少なくとも、悪魔のカケラの魔力は感じない。
 感じないほどの低級のカケラなら、旧政府が重視するとは思えない。
 今回は空振りかなぁ。)

しかし同時に、胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
(……でも、あの“龍”は?
 あれは……特定の魔力ではない。
 そして魔力を含む神通力の全系統でも、おそらく説明がつかない。)

竹娘はその疑問を、そっと胸の奥にしまい込み、小さく呟いた。
(……良いんだ。今は粛々と調査を。そして、ルナルナに帰るまでの数日間を楽しむことにするよ。)

第六項 やればできる子

白銀歴1204年11月4日(火)

《なよ竹》の昼は、いつもより賑やかだった。

「小粒! 今日も監視に来てやったぞ!!
 ところで! 俺が毎日来るようになった理由、覚えてない?」

可染が開店と同時に乱入した――その直後。

その背後から、近所のヒステリーサークル《厚年貴生涯(こうねんきしょうがい)》の主婦たちが雪崩のように押し寄せ、
可染はそのまま轢きつぶされ、 床に「バキッ」と何かが軋む音が響いた。
「ぐはあっ! ば、ババアども、、、ぉっ!!!」

癇癪院 ひめ子「今日も小粒くん、可愛いわねぇ……食べちゃいたいくらい。」
発狂寺 みつよ「うちの娘のお婿さんになってくれない?」
絶叫野 るつる「うちの娘のお義父さんになってくれない?」
乱打田 みどり「昨日より背が伸びてない? 伸びてるわよね? あっちも伸びてるのかしら。」
ひめ子「ねぇ…みつよさん、あの子……将来いろんな意味で有望よねぇ(ひそひそ)」
みつよ「そうね…ひめ子さん。種男くぅん、写真、撮っていい? 個人用に(意味深)」
るつる「もう “いろいろ” 出始める年頃かしらねぇ。私のお口に、白いおしるこ、注文できないかしら?(意味深)」
みどり「種男くん、”私のなか” にだったら “そのへん気にしなくていいわよん”(意味深)」

種男は困ったように笑いながら、 味噌汁をよそい、注文を取り、料理を運ぶ。

そして、主婦たちの群れの奥から、
サークル代表──厚年貴至嬢(こうねんきしじょう)、錯乱原 さくらが姿を現した。
「ごきげんよう、種男君。
 あんた今日も……可愛さの災害警報、発令寸前やわ。ほんま、避難指示出るで。

 ところで――」
彼女は周囲をぐるりと見回しながら続ける。
「なんや、あんたを狙う泥棒猫が居ついとるって聞いたんやけど……今日は留守なんか?」

可染「ニセ月京だな?よし、話は早い。手を組んであの忌まわしき小娘を――」

言い終わる前に、さくらの平手打ちが爆音じみた勢いで炸裂し、可染は壁の方へよろめき飛んだ。

さくら「誰やあんた、気持ち悪いこと言うて。
 ええか? ここは種男君のお店で、あたいが一番の太客で、
 あんたはただの迷惑客やいうことや。
 文句あるんやったらな、泥棒猫を排除したい言う前に――
 まず自分の能力、示しぃ?」

種男は昨日と同じく、味噌汁の柄杓を持ったまま右往左往し、完全にパニックになっていた。
(まただ……きょ、きょ、今日は止めないと。)
「あ、あの、お二人とも……」
しかし、声は店内の怒号に呑まれた。

可染「いいだろう…見せてやるよババァ。後悔するなよ……今は亡きキサラちゃんがよく言っていた。
 俺様はやればできる子だってなぁ!!
 うあぁああぁぁあん!!!」
両腕をぐるぐる回しながら、さくらへ突撃する。

種男(可染さん、負ける匂いしてきた!)

さくら「おぉ、仕掛けてきよったわ。
 あんた死んだとしても、これは正当防衛成立やんなぁ?
 泥棒猫の前の試し斬りに、ちょうどええわ。」
彼女は不敵に笑い、仕込み杖を抜く。
赤い刀身が、すっと姿を現した。

その瞬間、常人の目では追えない速度で、可染とさくらの間に鬼乃子が割って入る。
仕込み杖の刀身は、根元から折れていた。

可染「フハハハ!見たかババァ。鬼乃子は最強!」

鬼乃子「ご婦人……殺す気までは無かったとお見受けしますが、それでも困ります。」

さくら「おぉ怖。なんやあんた、このアホに仕えとるんか?
 あんたの強さ、あたいが逆立ちして三回転しても勝てへんくらいやのに、なんでこんなポンコツ守っとるんやろねぇ……
 分からんわぁ……弱み握られて手籠めにでもされとるんかえ?(ゲス顔)」

鬼乃子「可染様にお仕えするのが……私の使命ですから(溜息)」

可染「何その…めっちゃ嫌そうな感じ!!」

(……ありがとう、鬼乃子さん)
けれど、胸には別の言葉が残った。
(僕は、結局また何もできなかった)

第七項 二(人)なりの遊び時間

白銀歴1204年11月5日(水) 就寝前

竹娘は、風呂場の床に座り込んでいた。
「……できた!」
塗料がつくのを気にして下着姿で作業していた彼女の手には、完成した戦闘機のプラモデル。
細部まで丁寧に塗装され、まるで本物のように輝いている。

「すごい……筆塗りでこれ!? 竹娘さん、器用なんですね……
 (白!…じゃなくて、青の小さいリボン!…じゃなくて目のやり場が……)」

「ふふん。ゲルマニア公国地方の模型コンテストで佳作取ったことあるんだよ
 ……まあ、子どもの部門だけどね。」

種男は感心しつつ、 しかし視線の置き場に困りながら部屋を片付けていた。

竹娘はふと机の上のノートに手を伸ばす。
「ニシシ(* ´艸`) もしや、おなごとの交換ノート?」

「ち、違! でも、わっ、だ、だめっ!」
慌てて竹娘からノートを奪い、抱え込む種男。 頬が真っ赤だ。

竹娘(……詩? かわぃい……)

「み、見ないでください……!」
「見てないよ。見てないけど…… “思い出はいつも綺麗だけど、それだけじゃ飢え死にしちゃう”……んだよね?」
「わああああ!!」

竹娘はくすっと笑い、本棚の書物とゲームソフトに目を留めた。

「《月哭譚(げっこくたん)》 京都府みやこ文化出版」

「(かぐや姫…ここにも。)種ピーこれ好きなの?意外と恋愛モノ好きだったり?」
「恋愛モノは嫌いじゃないけど……それ、多分“平安輝夜恋綺乱(へいあんかぐやれんきらん)”のほうだよ。
 これは原典。京都でしか手に入らないんだ。」
「(嫌いじゃないんだ…じゃなくて)そうなんだ。原典と恋綺乱って、どこが違うの?」
「大筋は同じだけど、原典は“かぐや姫と翁夫婦の絆”が中心なんだ。
 友守との恋愛は恋綺乱のオリジナル展開。
 だから恋綺乱は“恋愛要素を盛ってエンタメ化した結果、原典と誤解されてる作品”って感じかな。

 ……で、原典のほうは京都府がパテント化しててさ。もっと言うと“府の専売”。
 紙媒体のみで、更に京都府内限定。ほぼ“文化財なのにお土産ノリ”なんだよ。」
「文化財なのにお土産ノリ……。」
「気になるなら読んでも大丈夫だからね。」

原典のレアさに感心した竹娘は、なぜかそのままゲームソフトへと興味をジャンプさせた。

タイトル :《ステラーヴァルキリーズ:ギャラクシークライシス4 / Stellar Valkyries: Galaxy Crisis Ⅳ》
ジャンル :2D対戦格闘ゲーム
開発   :コムニア軍広報局 × Titan Brawl Works Co., Ltd.
対応機種 :AX-9 / Xenon Z / NovaSwitch / StarLink
プレイ人数:1〜2人(オンライン最大16人ロビー)
ネットコード:星間遅延補正型ICR(Interstellar Correction Rollback)
キャッチコピー:「銀河を救うのは、君の一撃。」

実在する特殊部隊を主人公チームに据えた4on4の2D対戦格闘ゲームだ。

竹娘「ステラーヴァルキリーズじゃん。子どもの頃、ちょっとだけアニメ見たよ。
 対戦ゲームにもなってたんだ、これ。」

種男「うん。けっこう歴史あるシリーズでね。
 ストーリーモードは、アニメの歴代隊員のエピソードを組み合わせた構成になってるんだ。」

竹娘「え、そんな続いてるの!?
 私、3代目タイタニアが呆然騎士(ぼうぜんリッター)の駐屯基地に奇襲かける回だけ見てる(笑)
 あれストーリーモードに入ってる?」

種男「残念ながら。
 っていうか、見てるのそこだけ?(笑)
 でもあれ、ファンの間では“殴り込み回”って呼ばれてて有名なんだ。」

竹娘「へ~。
 あ、ウェブにストーリーモードのあらすじ公開されてるね。
 ランクマッチの集計結果も出てる。
 ダイヤ帯の更に上……最高ランク“銀河英雄帯”で絞ると……
 ん? 2位……
 プレイヤーネーム:ピリ辛の山椒……って、もしや種ピー?」

種男「ふふん、そうなんです。
 ヒノモトの諺『山椒は小粒でもぴりりと辛い』をご存じとお見受けしました。
 一位の“畔蒜ゲイさん”に勝てなくて……。」

竹娘(世界2位て凄いな……)
「私をしばいてみて///」

種男「えっ///」

竹娘「ゲームで。」

…傍から見ると心底つまらなかろう会話を、二人は延々と続けていた。

第八項 手作業のある暮らし 夜もギンギン

白銀歴1204年11月6日(木) 夕方

商店街の夕暮れ。 二人は並んで歩きながら、食材を買い込んでいた。

「竹娘さん、九城ネギ(くじょうねぎ)は白い部分が甘いんですよ」

「あっ……これルナルナじゃ中々買えないヤツ。ヒノモトじゃ、こんなに安いんだ……」

種男はついつい嬉しくなって続ける。
「あと、この銀目鯛(ぎんめだい)は目が澄んでるのが新鮮です」
「大薔薇蟹(たばらがに)は生物分類上はカニじゃなくてヤドカリの仲間なんです」
「茶都芋(さといも)は帝王石灰(ていおうせっかい)を焼き石にして炒ると美味しいんです!」

「あっ、ごめん、つい嬉しくて……退屈だよね。」

竹娘は目を瞑って微笑んだ。 「ううん。もっと聞かせて?」
(……この星の生活、悪くないかも)

竹娘は、テラ=プレアデスの“手作業の文化”に少しずつ惹かれていった。

魚屋のオヤジが声をかけてきた。
「おうおう、種の字、おめー いつ こんな べっぴんさんと デキてたんだべ?」
「いつもウチの魚 おめーの店で宣伝してくれてるお礼兼ねて、この鰻、持ってけ。夜もバッチリよ!」

竹娘「あの、私たちそんなんじゃ……」
種男「? 鰻は今シーズンオフですよ? 僭越ながら宣伝するなら夏の方が。」
魚屋のオヤジ「……すまねえ、おめーで食ってくんろ。」

帰路につく途中、、、

竹娘
(……この街の人たち、ほんとストレートすぎるよ……でも、嫌じゃないのが……ちょっと悔しい)
(…そうだ、ちょっとからかっちゃえ。)

「ねぇ、種ピー、まだ私 ヒノモトの方言に疎くてさっ、さっきのオヤジさんの言葉… “べっぴんさん”てどういう意味?」
「(あの諺を知ってるのに!?)え!? えーと、美人さん、の意味だよ」
「そうなの?(知ってるよ)」
「じゃあ、”デキてる”ってのは?」
「、、、こ、恋人同士の意味、かな///」
「……そ、そうなんだ(それも知ってる……知ってるよ。)」

第九項 慟哭

白銀歴1204年11月6日(木) 深夜 種男の部屋

和室の敷布団で眠る種男のそばに、竹娘は胡坐をかいて座り、 静かに《月哭譚》の書物を開いた。
(恋綺乱を元にした映画やアニメは観たことあるけど……原典を読むのは初めてだなぁ)

この数日、月哭譚ゆかりの地を調査したものの、悪魔のカケラはどこでも検知できなかった。
ならば他に手がかりはないか――そう考え、物語そのものを初めて通して読んでみることにしたのだ。

月哭譚は、平安京を首都とするヒノモト国家を支配する
皇 銀雅(すめらぎ ぎんが)とその官僚組織による圧政から、
かぐや姫が民衆を救ったとされる物語である。

史実を元にしたと言われる一方、多くは荒唐無稽な創作とされており、
竹娘もこれまでは“ただの御伽話”として深く気に留めていなかった。

しかし、歴史を振り返れば、権力者が自らの支配や計画を誇示するため、
紙幣や建造物、記号やシンボルの中に“あえて痕跡を残した”例は枚挙にいとまがない。

ならば、この御伽話にも何か意図的な痕跡が隠されているのではないか――
竹娘はそんな可能性を探るように、静かに表紙をめくる。

物語と、ルナルナ王室の記録やルルデスレポート、そして今日までの調査結果。
さらに、ヒノモトに来てからの出来事などを重ね合わせながら、竹娘はページを開き読み始めた。

妖がはびこる平安京。竹取の翁は、光り輝く宇宙船の内部で一人の少女を見つける。
(かぐや姫の降下地点──私と種ピーが出会った、あの竹林だ)

少女は翁夫婦宅に居候しながら、星辰剣道を駆使してわずか三か月で平安京の妖の大半を殲滅する。
(妖の正体は悪魔のカケラを応用した魔性種。時代的には“魔物”だろうね)

やがて「輝夜(かぐや)姫」と名づけられた娘の評判は都中に広まり、多くの男たちが求婚に押し寄せる。
(ここ、完全に喜劇パート(* ´艸`)テンポが軽い)

その求婚者の中に紛れ込んでいたのが、皇 銀雅の配下である暗殺者集団──
「求魂(きゅうこん)戦隊フラレンジャー」五人。
激闘の末、三人は討たれ、二人は改心して皇を離反する。
(倒された三人の妖術──これ“回収された三つのカケラ”の元になった悪魔の魔力そのものじゃない?)

フラレンジャーが退けられると、かぐや姫抹殺計画が本格的に始動。
皇 銀雅は翁夫婦を人質に取り、宮中でゲリラ戦を仕掛けるが、姫はこれをあっさり突破する。
翁夫婦を救い出したかぐや姫は涙を流し、自らがルナルナの者であることを明かす。
(ヒノモトを救おうとした理由──原典では一切語られないんだ)

皇はついに禁じ手を使い、宮廷地下に封印していた妖をすべて平安京へ解き放つ。
妖は、皇が民衆を支配するために作り出した道具だったのだ。
(魔物を使った支配──古今東西で事例がある。この国も例外じゃなかったのかもしれない)

夏の夜、ルナルナの使者たちがかぐや姫を支援するためヒノモトへ降り立ち、全面戦争が勃発。
かぐや姫は星辰剣道の奥義・終の四十八手を振るい、至高の妖・夜刀咬(やつがみ)を夜空へ散らすように斬り伏せた。
戦いの果て、かぐや姫は翁夫婦との別れを惜しみながら、ルナルナへ帰還する。
(かぐや姫文書の《遺体損傷率:42%》《未回収2個こそが別働隊の“本命”》──
 この混乱で、かぐや姫は“殺された”可能性が高い)

敗れた皇は、妖の製造法と不老不死の薬を携えたまま、不死山(ふじさん)の火口へと自らの身を投げた。
ヒノモトを永遠に支配するという野望が、完全に潰えたからである。
(製造法と不老不死の薬。これが《未回収二個》?
 ……少なくとも、製造法は違う。
 魔物の製造法は、古代から現代まで民衆には秘匿されている。
 でも、権力者の間では二千年前から共有されていた。
 ルナルナ政府も、千二百年前にはすでに魔物を利用していたのだから。)

妖による平安京の支配、全面戦争、そして皇の最期──
これらがどこまで史実に忠実なのかを判断する材料は、ほとんど残されていない。

ただ、わずかでも史実の可能性を示すとすれば、それはフラレンジャーに関する記述だろう。

三人は妖の力を宿した怪人となり、かぐや姫に討たれた。
森石 公成(もりいし きみなり)は“価値ある幻影”を見せる力を持ち、
球磨 御史郎(くま みしろう)は炎の輪を纏い、
磯野 良太(いその りょうた)は生命力を吸い取った。

これらの怪人が示した能力は、
影契家政使魔(マーラ)、葬骸焔奪輪猫魔(ガシャ)、麗理巫堕媛魔(リリス)──
回収された三つの悪魔のカケラに宿る魔力の特徴と一致している。

そして残りの二人──
鞍馬 桃司(くらま とうじ)はその後、覇極の妖・羅刹鬼(らせつき)との戦いを繰り広げた英雄として語り継がれ、
後の世では“桃太郎”の名で伝承されることとなった。

友守 悠紀成(とももり ゆきなり)は、竹林を買い取る名目で翁夫婦に財産を与え、
その晩年を静かに見守った。

(残る二人のその後には、《未回収二個》へ直接結びつく物や力の記述がない。
 鞍馬の伝承は、ヒノモト古来の霊長類──オニの大虐殺を正当化する別の物語へと姿を変え、
 友守の行いも、月哭譚の終幕でかぐや姫が去った後の翁夫婦を静かに支えただけの話だ。

 それでも、竹林だけはどうしても引っかかる。
 友守家から大伴家へ継がれた、あるいは友守家=大伴家だったのだとしたら──
 やはり彼らはこの場所で、ずっと何かを守り続けていたのではないか。

 そもそも、かぐや姫はなぜ“ここ”を降下地点に選んだのだろう。
 やっぱり、この家に何かが──)

「……ぁちゃん」

思考の迷路に沈みかけた竹娘の耳に、種男の声がふっと触れた。
答えが出ないと分かっていながら、それでも探してしまう問いを、その小さな声が一度だけ止めた。

竹娘はゆっくり視線を向ける。
種男は眠ったまま、静かに呼吸をしている。

(種ピー……
 小粒 種男。大伴家最後の人、深雪さんが育てた身元不明の男の子。
 それに、私にも解析できない能力を使う。
 大伴家が守ったもの──まさか、彼自身が……)

種男は眠ったまま、か細く呟いた。

「……どうして、死んじゃったの」

一筋の涙が、布団へ落ちた。

彼女は静かに膝をつき、種男の布団のそばに座った。
布団に入りはしない。ただ、そばにいるという距離だけを選んだ。
(……その言葉、私も何度も心の中で言った。
 だから……なんとなく分かるよ、種ピー。)

第四幕 十七歳の夜

第一項 映画だけでは足りなくて

白銀歴1204年11月7日(金)

《なよ竹》は午後から休業だった。

「今日は……その……お休みなので」
 種男は少し照れながら言った。

「映画にでも行きませんか?」
竹娘は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になった。

「リクエストしていい? この国でのタイトル知らないんだけど……
 互いに自分こそ母親だと主張して譲らぬ2人が、
 1人の少年を巡って争いながら珍道中を繰り広げるロードムービー。
 テラ連合圏内でしか劇場公開されてないみたいなんだー」

「え、コムニア映画なのに!? 元はガリアン共和国作品のリメイクだよね? “母達の日”だったかな。」

「詳しいじゃん♪ 行こ、早く行こ!」
竹娘は種男の手を引っ張って店を出た。 夕陽が、二人の影を長く伸ばしていた。

種男「ビリー・サファイアとケビン・ウィリアムズのコンビはとっても似合ってたねー」
竹娘「マーゴットはクソガキだけど良い子だった。……ああいう子、放っておけないよね。」

映画の感想で盛り上がる2人が店に戻ると、椅子に黒い財布が置きっぱなしになっているのに気づいた。

種男
「あれ、誰か財布忘れてる。名刺……株式会社 夕星重機製作所……あ、夕星さんのだ。
 免許証、自宅の住所かな。届けてあげなきゃ。」

竹娘「ええっ、届けてあげるの!?わざわざ!?どーせ明日も来るんじゃない!?」

種男は少し考え、それから顔を上げた。
「僕の車で、行きませんか?五時間、真夜中のドライブ!」

竹娘「えっ、車? 種ピー、あなた空も飛べるのに… それに、疲れてない?今から大丈夫?着いても夜中だよ?どの道 渡すなら明日にしないと…」

種男は胸を張った。
「僕はクルマ好きなのです。 将来はカッコいいセダンに乗るんです!
 … ホントは夕星さんの財布は口実。

 竹娘さん、明後日の公務終わったらルナルナに帰っちゃうんでしょ? そう考えると、、、
 映画だけじゃ嫌だなって、さっき思っちゃったんだ。

 静岡に行く途中の巴奈馬湖周辺、夜とてもキレイなんだよ。」

竹娘
(それって――)
「……そっか。  うん、行こ。無理しない範囲でね。。。
 …あ、もしかして そこ、鰻の名産地でもあるでしょ?
 ルナルナだとそこの鰻、びっくりするほど高いんだよ。」

互いに気持ちを言葉にしないのか、出来ないのか。そこには、少し辿々しく話す二人がいた。

第二項 月影の理由

株式会社夕星重機製作所 マザー工場内 秘密の部屋――社長室の奥に隠された、薄暗い司令室


可染はモニターを睨みつけながら、ぶつぶつと独り言を漏らしていた。

鬼乃子はため息をつき、思い切って口を開いた。
「……可染様。どうしてそこまでルナルナ――特に月京家を敵視なさるのですか。
 あの特使さんに“深雪さんの店を奪われた”という、アホな誤解以外にも、何か理由がおありなのでしょうか。」

「かぐや姫だ」

「はぃ? かぐや姫?」

可染は一瞬黙り、珍しく真面目な顔になった。
「……昔の話だ。
 かぐや姫はな……ルナルナ政府のヒノモト侵攻に利用された挙句、
 信じていた仲間に裏切られ、不意打ちを受けて命を落としたんだ。
 御伽話の英雄譚なんて、全部嘘っぱちだ。」

鬼乃子は目を瞬かせた。

「それに……確か……オレは“ヤツら”に平安京を支配されないよう、五人の部下と五つの財宝を守らなきゃならなかった。

 五つのうち……二つは……なんとか守ったはずだ……」

鬼乃子(部下……まさか大伴家も、その一つ……?)

可染は拳を握りしめた。
「ルナルナの特使を見たか?
あれが月京家の末裔だと!?
 姫竹(きさら)ちゃんに似ても似つかねえ!
 ……偽物だ。本物の“月京の血”は……もう残ってねぇ。うぅ、うっ(´;ω;`)」
 いつの間にか鼻水と涙を垂らしていた。

鬼乃子
(汚っ。
 ……似てないのは当然です。千二百年で何代累代していると思っているのですか。

 月京姫竹(つきのみや きさら)……それが、かぐや姫のお名前。
 そして弊社AIの名前も“KISARA”……まさか可染様……?

 ……やっぱりキモ……いえ、複雑なご事情があるのですね)

可染
「だからオレ様は……このヒノモトを守り抜かなきゃならねぇんだ……!
 じゃねぇと、姫竹ちゃんの死が無駄になっちまう!!!」

鬼乃子は怪訝な顔で呟いた。
「……おやめください……可染様の癖に……
 そんな真剣な事情がおありだったなんて。
 
 少し……本当にほんの少しだけ同情しそうになってしまうではありませんか。」

可染は急に立ち上がった。
「よし! そうと決まればルナルナ特使迎撃準備だ!
 石笠! 先日ヒノモト放送協会からキャンセルくらった ” 集金兵(しゅうきんぺい) ” 二百体を、
 戦闘用に改造しろ!」

石笠「閣下!アイアイサー!!!」

鬼乃子
(……製品のシェアを上げることが“世界征服”ではなかったのですか?
このままだと、ただの犯罪者です……)

第三項 タネピー号、発進

《なよ竹》の前の通りは、夜の冷気に沈んでいた。

街灯の光が細く伸び、舗装路に淡い影を落としている。

種男の軽自動車は古いけれど丁寧に手入れされていて、
ヘッドライトがふっと灯ると、まるで小さな船が夜の海に浮かび上がったようだった。

竹娘は腕を組みながら、車をじっと見つめた。
「……これが、タネピー号?」

「(タネピー号?) はい。あの……古いですけど、ちゃんと走ります」

少し誇らしげで、少し照れた声。
竹娘はその声音に、胸の奥がくすぐったくなる。

「いいじゃん。こういうの、好きだよ。 “自分の足”って感じがして」

種男は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑った。
「……乗ってください。シート、倒れやすいので気をつけて」

竹娘は助手席に腰を下ろし、ドアを閉める。

軽い金属音が夜に吸い込まれ、車内に静寂が満ちた。
エンジンがかかると、古い車特有の低い振動が足元から伝わってくる。

竹娘は窓の外を見ながら、ぽつりと呟いた。
「ワオ……こういうの、初めて。 宇宙船とは全然違うんだね。
 揺れるし、音もするし……でも、なんか落ち着く」

種男はハンドルを握りながら、横目で竹娘を見た。
「僕、車が好きなんです。 空を飛べても……地面を走るのって、なんか特別で」

「へぇ……」

竹娘はその横顔を見つめた。
街灯の光がフロントガラスを流れ、種男の頬に淡い影を落とす。
(……この子、ほんとに真っ直ぐだな)

車がゆっくりと動き出す。
夜の京都の街並みが、静かに後ろへ流れていく。

「……ねぇ、種ピー」

「はい?」

「さっきの……“映画だけじゃ嫌だな”ってやつ。 あれ、どういう意味?」

種男は一瞬、ハンドルを握る手に力を込めた。
そして、少しだけ視線を逸らしながら答えた。
「……そのままの意味です。竹娘さんと過ごせる時間、もっと欲しいなって……思っただけで」

竹娘は窓の外に視線を戻した。
(……ずるい、そういうの)

車は夜の街を抜け、巴奈馬湖へ向かう長い道へと滑り込んでいく。
二人の間に流れる沈黙は、気まずさではなく、
“これから始まる何か”の予感で満ちていた。

第四項 Seventeen

車は巴奈馬湖へ向かう山道を走っていた。
街灯のない道は闇が深く、ヘッドライトだけが細い光の道を切り開いていく。

竹娘は窓を少し開け、夜風を吸い込んだ。
「……冷たいけど、気持ちいいね」

「はい。湖が近いから、空気が澄んでるんです」
種男はハンドルを握りながら、ちらりと竹娘の横顔を見た。

月明かりが彼女の頬を淡く照らし、その表情はどこか遠くを見ているようだった。

しばらく沈黙が続いたあと、竹娘がぽつりと呟いた。
「……ねぇ、種ピー」
「はい」
「今日って……七日だよね?」
「えっと……はい」

竹娘は小さく笑った。
「そっか。じゃあ……私、何歳に見える?」

(うわ、絶対に間違えられないヤツーーーーーー……)
「え、と……16歳?」

「惜しい!!! 昨日までなら正解!」

種男の手が、ハンドルの上でぴたりと止まった。
「えっ……今日、誕生日……?」

「そう。言ってなかったっけ? 11月7日」

「は、初耳です……!」

種男は慌てて言葉を探した。
「えっと……その……おめでとうございます!
 ……あの……知らずに、僕、自分のやりたいことばっかり……!」

竹娘は吹き出した。
「ふふっ、そんなに慌てなくていいよ。 別に祝ってほしくて言ったわけじゃないし」
でも、その声はどこか嬉しそうだった。

種男は少しだけ勇気を出して言った。
「……でも。 竹娘さんの誕生日を、僕が知れたのは……なんか、嬉しいです」

竹娘は窓の外に視線を戻した。けれど、頬がほんのり赤い。
車内に流れる沈黙も、さっきよりもずっと柔らかい。

竹娘は夜空を見上げながら、小さく呟いた。
「……誕生日を誰かと一緒に迎えるの、久しぶりでさ」

種男は驚いて竹娘を見る。
「え……そうなんですか?」
(竹娘さんも……家族が居なかったり、会えなかったりするのかな)

竹娘は少し間を置いてから、ぽつりと答えた。
「うん。 お父さんと……友達と……小さい頃は毎年やれてたのにな」

その言い方は、懐かしさと悲しさが半分ずつ混ざっているかのよう。竹娘は少しだけ寂しそうに笑った。
「でも今年は……こうしてあなたとヒノモトの夜道を走ってる。
 どうしてだろう、不思議な気がする」

種男はゆっくりと頷いた。
「……僕は、嬉しいです。 竹娘さんの誕生日を……一緒に過ごせて」

竹娘は目を閉じ、夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。
(……それは反則……)

車は静かに湖へ向かって走り続ける。
二人のあいだに漂う空気は、ただ静かに、淡い光のように変わりはじめていた。

第五項 湖畔の罠

車が山道を抜けると、視界がふっと開けた。
夜の闇の中に、巨大な水面が静かに横たわっている。

巴奈馬(はなま)湖――

街の光を遠くに映しながら、まるで黒い鏡のように、風もなく凪いでいた。
湖畔に沿って走る道路は、本来なら観光客向けの明るい道のはずなのに、どこか“妙に整いすぎて”いる。

ガードレールの根元には、不自然に新しい金属片。
道路脇の植え込みには、夜目にも分かるほど規則的な“黒い点”。

竹娘は眉をひそめた。
(……センサーの密度、高すぎる。こんな地方道に、軍用レベルの監視網……
 しかも見たことない独自規格の機器まで……)

種男は気づかず、ただ湖の広さに感嘆していた。
「すごい……こんなに大きいんですね、巴奈馬湖って。
 鰻の仕入れでこの辺の卸売場には来たことあるんですけど、湖畔は初めてで」

竹娘は周囲を見回しながら、胸の奥に広がる違和感を整理する。
(……湖畔は観光地の雰囲気を出してるけど、そこに至る道が……妙に厳重すぎる。
 これは監視というより……迎撃用の布陣に見える……)

道路脇の街灯は、どれも同じ角度で湖を照らしている。
その根元には、本来あるはずのない“冷却フィン”のような突起。竹娘の背筋に、冷たいものが走った。
(……種ピー。この辺り、なんか……変だよ)

しかし種男は何も気づかず、車内ラジオに流れる歌謡曲「ヤタガラスの少年 / 神姫kids」を楽しそうに口ずさんでいた。
「そんな小さな“カケラ”に〜人生ごと売り渡すキミが哀しい〜 僕の心は 砕けちった 神珠(しんじゅ)さーーー♪」

(あれま。き、キレイな歌声……)
竹娘は、その歌を中断させたくなくて、もう少し聴いていたくて、言葉を飲み込む。

代わりに、湖の向こうに見える“妙に暗い区画”に目を凝らした。
観光施設の影にしては、形が硬すぎる。まるで“隠し通路の出入り口”のようだ。
(……ここら辺はただの観光地じゃない。 構造が……地下軍事施設のそれ)

湖面に映る光が、まるで合図のように一瞬だけ瞬いた。

(……まずい。 ここ、もう射程圏内かも。
 航空兵器なら活動範囲内……もし私を狙う者がいたら……
 今日だけは、この心配が自意識過剰なら良いな)

その願い虚しく、この監視網はすでに――管理者へ、二人の情報を送信していた。

だが――
この監視網の情報送信先が“こいつら”で良かったのかどうかは、神のみぞ知るところである。

夕星重機製作所・地下司令室。

モニタに映るのは、巴奈馬湖周辺の監視映像。
しかし、その大半は――湖畔でいちゃつくカップル達であった。

可染は腕を組み、画面を睨みつける。
「どいつもこいつも……人様の湖畔で乳繰りおうてからに……ゆ、許せねぇ。」

隣で石笠が、なぜか息を荒くしている。
「うおっ……おうっ……おおうっ……おうっ……!」
興奮しているようだ。

鬼乃子は頬を赤らめながらも、しかし視線はしっかりモニタに釘付けだ。
「……お二人とも、悪趣味です///」

そんな中、突然、警告音が鳴り響いた。

ピコン! ピコン! 緊急アラート発生!

画面に、竹娘と種男の姿が映し出される。

可染の目が見開かれた。
「あの二人……な、何で!?
 こっちに向かってる!?
 
 !

 まさか、オレを倒しに来たのか!?
 集金兵の改造が終わる前に攻めてくるとは……

 排除せねば!」

鬼乃子は画面を見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(あの雰囲気……違う気がしますけど。
 違って……欲しいです、なんか……)

可染は机を叩き、叫んだ。
「よぉし、いいだろう!ニセ月京ぁ……天才料理少年……貴様らがそのつもりなら――!」

可染は指を突き出す。
「無人戦闘艇にミサイルとバルカン、プラズマレーザー砲を積んで発進させよ!二人を捕獲する!!」

石笠「アイアイサーーーッ!!」

鬼乃子はため息をつき、冷めた目で可染を見た。
(好きになさってください。 どうせ失敗するんですから。
 あなたはそういう星の下に生まれている……)

そして淡々と業務的な声で。
「……捕獲用の機材は積まれてますか?」

こうして、
“ただのドライブデート”は、
可染の誤認によって戦闘へと巻き込まれていく。

こうして、 湖畔を走る二人のささやかなドライブは――
なぜか変人が全力で勘違いした事件へと、ゆっくり巻き込まれていくのであった。

――この夜、種男の車を狙うのは……ミサイル。

第六項 竹取合戦・前夜戦

巴奈馬湖の静寂を裂くように、背後から低い駆動音が迫ってきた。
竹娘が振り返るより早く、黒い影――無人戦闘艇が軽自動車の真横に並び、無機質な機械音声を響かせる。

機械音声(可染)
「止まるんだ、侵略者ども!」

種男は思わずハンドルを握り直した。
(侵略者ども……?)

その言葉に、ふと竹娘と出会った日の会話が脳裏をよぎる。
「ヒノモトを守ったってのが真っ赤な嘘。
 本当は滅ぼす側に加担してた悪党なんだよ。
 で、私はその血筋と意思を継ぐ者、ってわけ」
「来週が楽しみだね、種ピー」

(もしかして……本当に?)
(違う、そんなはずない。ずっと一緒にいた。怪しいことなんて……)
(でも、公務が明後日……明日は何をするつもりだったの……?)
(違う、アレは嘘だ……!)

竹娘は、あの時の種男の顔を思い出し、胸の奥でそっと呟いた。
(冗談だよ……お人好しすぎるから、ちょっとからかっただけ……そんな顔しないでよ)

だが、種男は知らないままだ。

不安が胸を締めつける。

その時――

機械音声(可染)
「とりあえず止まれー。止まらんと撃つぞー」

言った矢先、司令室では可染が別のボタンを押していた。
「あ、ヤベ」

次の瞬間――ミサイルが発射された。

石笠「か、閣下! 控えめに言ってあなたはイカれております!!」

竹娘は反射的に動いた。
右手の手刀で種男のシートベルトを一瞬で切断。
左足で運転席側のドアを蹴り破り、種男の身体を抱き寄せながら車外へ飛び出す。

そして轟音。爆風ーーー

タネピー号が宙に浮き、回転しながら吹き飛ぶ。

竹娘は地面に背中から滑り込み、種男を胸に抱いたまま受け身を取った。

爆風が背後で弾ける。

竹娘は息を整えながら、ふと気づく。(……ん? 破片、一つも当たってない……)

その異常さに、竹娘の眉がわずかに動いた。

遠くの司令室では、鬼乃子がモニタを見つめながら青ざめていた。
(……この方とは闘いたくないですね。)

タネピー号の残骸の上空を旋回しながら、無人戦闘艇が再び機械音声を響かせる。

可染(機械音声)
「くそー! 捕獲! 捕獲! 距離を取り、バルカン砲発射!!!」

戦闘艇が旋回し、竹娘と距離を取ろうとした――その瞬間

戦闘艇のバルカン砲固定台に竹娘の飛び蹴りが炸裂する。
右脚が弧を描き台座を軋ませたかと思えば、左脚から放たれた閃光がジョイント部に突き刺さる。
空気が裂け、金属が悲鳴を上げた。

竹娘は宙を舞いながら着地し、
「これで撃ち落としちゃおうかなっ♪」と微笑んだ。

竹娘が落ちたバルカン砲を拾い上げたその時、戦闘艇の隠しハッチが開き、プラズマレーザー砲が姿を現す。

青白い光が収束し――レーザーが発射される。

竹娘はすでに反応していた。右手がレーザー同様の色に光り、プラズマを浮かばせている。
「バルカン撃つ手間、省けたよ」
レーザーを反射して撃ち落とすつもりだった。

だが――
レーザーは竹娘の腕に届く前に、ふっと消えた。

竹娘「!?」
振り向くと、種男の周囲に淡い光が渦巻き、龍の姿が半透明に顕現していた。

その龍が、竹娘を包むように防壁を張っている。
種男は不安そうに竹娘を見守っていた。

竹娘は息を呑み、そして微笑んだ。
「……ありがと、種ピー」

竹娘は拾ったバルカン砲を構え、戦闘艇へ向けて引き金を引いた。

ちゅ ど ー ー ー ん 。

無人戦闘艇は爆ぜ、夜空に散った。

遠くの司令室では、可染が腰を抜かしていた。
「な、何者なんだアイツら……」

石笠は肩をすくめながら、しかしどこか楽しそうに言う。
「閣下。バルカン砲、人が撃てないように改修しておくべきでしたな。もう何艇か出撃させますか?」

鬼乃子は深いため息をつき、冷静に状況を見極めていた。
「可染様、石笠様。そんなことしても結果は変わりませんわ。それに、警察もじきに来るでしょう」

鬼乃子はモニタを操作しながら、淡々と続ける。
「戦闘艇は“正体不明”。
 彼らは“被害者”。
 私は“目撃者”として通報します。
 ――それで切り抜けられるでしょう。」

可染は震える声で頷いた。
「た、助かる……鬼乃子……!」

鬼乃子は微笑んだ。だがその目は、どこまでも生暖かく冷静だった。

爆発の余韻が消え、湖畔に静けさが戻る。

竹娘は肩で息をしながら、真っ先に種男へ向き直った。
「……ごめんなさい。私のせいで巻き込んじゃった。大事なクルマーーー」

しかし種男は、むしろ目を輝かせていた。
「竹娘さん、さっきの……すごかったですよ!
 あの飛び蹴り、何ですか!? 斬撃みたいな……人間技じゃないですよね!」

竹娘は照れ隠しに、さっきの飛び蹴りのポーズを再現してみせる。
「ふふん。これが生身の力。で、種ピーが“斬撃”って言ったのが――“神通力”。」

種男が首をかしげると、竹娘は得意げに胸を張った。
「世界のルールを書き換える力、って言えば分かる?
 何もないところから火を出したり、水を生んだり、空間曲げたり……
 まぁ、森羅万象を“本能で理解”し制御できれば、なんでも出来ちゃうってワケ」

竹娘は調子に乗って、
「こう、バッ!って!」
と謎の決めポーズを取る。

種男は拍手してはしゃいだ。

第七項 夜明け前の告白

パトカーのサイレンが近づき、若い女性警察官が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!? 怪我は!?」

事情を聞きながら、種男に事故報告の書類を書かせる。
「……巴奈馬湖に行く予定だった、と。その後は?」

種男が 財布を届けにーーーと 答えようとした瞬間、
竹娘が小さく首を振る。

女警察官は一瞬だけ竹娘を見て、すぐに理解したように頷いた。
「――はい。“あなたたちは湖に寄らず、そのまま帰宅した”……そう報告しておきます」

帰り際、竹娘にだけ見える角度でサムズアップ。(うまくやりなよ)
竹娘も小さく笑って返した。

パトカーが遠ざかり、湖畔に再び静寂が戻る。

竹娘は湖面を見つめながら、ぽつりと語り始めた。

  •   小さい頃の誕生日
  •   父ソルエルと親友エルザェムとの別れ
  •   十歳で普通の生活が終わったこと
  •   宇宙海賊として各国の腐敗を暴き、命を狙われていたこと
  •   月京家の生まれではないこと
  •   今日の様な夜が“久しぶり”だったこと

本来なら、誰にも言えるはずのないこと。弱みにしかならないこと。
竹娘はそれを理解していた。

それでも――

種男にはどうしても打ち明けておきたかった。

種男は黙って聞き、竹娘の横顔を見守る。
かける言葉が、見つからない。

竹娘は最後に、少し照れながら言った。
「……ありがと。今日、一緒にいてくれて」

東の空がわずかに白み始める。

竹娘が立ち上がり、種男の方を向いた。
「……行こっか。夕星さんの免許証の住所、覚えてる?」

「うん。夕星さんの財布、ばっちり保護してたよ」
種男が頷くと、彼の周囲に淡い光が集まり、龍がゆっくりと顕現する。

出会った時よりも、
さっきよりも、
遥かに実体に近く、巨大だった。

竹娘はその龍の頭を軽く撫でて言う。
「着いたら……ゆっくり朝焼けでも見よっか」

その声音は、戦いの前とは思えないほど柔らかかった。

種男が頷くと、龍の身体が淡く光り、空気が震える。
龍の背にふわりと風が巻き起こる。
まるで二人を迎え入れるように。

種男が先に跨がり、竹娘がその後ろに乗る。
龍の鱗は冷たくもなく、熱くもなく、不思議な“生き物の体温”だけが伝わってくる。

龍がゆっくりと身を沈め――

次の瞬間、地面を蹴るように空へ跳ね上がった。
湖畔の景色が一気に遠ざかり、風が二人の髪を後ろへ流す。

夜の名残が漂う空を、龍は滑るように駆け抜ける。
雲の切れ間を抜けるたび、龍の身体に反射した光が青白い軌跡となって尾を引いた。

前を向いたまま、種男が声をかける。
「怖くない?……いや、竹娘さんが怖いわけないか、こんなの」

竹娘は小さく呟いた。
「うん…」

そして次の瞬間、
満面の笑みで――風切り音をかき消すほどの大声で――どこか甘えた響きを混ぜながら叫ぶ。
「……いや、めっちゃ怖ーい!!
 このままだと……
 落ちちゃうよーーー!!」

そう言うなり、竹娘は勢いよく種男の背中に抱きついた。

その抱きつき方は、
“落ちないため”にも――
“落ちていく自分をごまかすため”にも見えた。

その瞬間、
種男の胸の高鳴りに呼応するように、龍がふわりと高度を上げる。

空気が澄み、遠くの地平線がゆっくりと白み始める。

竹娘はその光を見つめながら、小さく息を吸った。
「……きれい」

龍の背で、二人はまだ誰も知らない朝を迎えに行く。

夜明け前の空を裂きながら、龍は静かに、しかし確かな軌跡を描いて
可染の住居へ向かっていった。

龍が雲を割って進むと、巨大な山影が夜明け前の空に浮かび上がる。

種男
(不死山……
 平安京の最高権力者が、かぐや姫から与えられた“不老不死の薬”を
 焼き捨てた場所と伝えられる、この国の霊峰……
 まさか、こんなところに来ることになるなんて)

竹娘は後ろでワクワクしている。

第五幕 竹取合戦

第一項 不死山の待ち伏せ

白銀歴1204年11月8日(金) 

不死山の麓に展開される、夕星重機製作所・マザー工場。
その横に建つ、場違いなほど立派な和風豪邸。

門の前に――可染が待ち構えていた。
「残念だ少年。
 貴様の料理……もっと食いたかったぜ」

小声で竹娘に話しかける種男「深夜なのに門の前に、、、どうしたのかな?」
竹娘「さぁ、散歩の時間なんじゃない?(待ち伏せされてたんだよ、多分。)」

ヒュッ!
空気が裂け、鉤爪付きの鞭が蛇のように伸びる。

鬼乃子「失礼します」
竹娘が種男の前に飛び出し、素手で鞭を弾く。

ガキィン!
火花が散り、竹娘の腕に浅い傷が走る。

鬼乃子は無表情のまま、しかし声だけは丁寧に。
「あの太刀…小粒さんの家に置いてきたようですね。
 ここで……引いてはくださいませんか?」

可染「問答無用!その二人を討て!!」

鬼乃子の目が一瞬だけ死んだ魚のようになる。
(……はぁ。やっぱり言うと思いました)

第二項 タケノコ vs キノコ

竹娘の足元が一瞬だけ沈む。

次の瞬間――
シュッ!土煙が上がり、竹娘の姿が鬼乃子の真横に現れる。

鬼乃子の瞳がわずかに揺れる。
(速い……っ!)

即座に肘を畳み、竹娘の脇腹へ鋭いフック。彼女の身体がわずかに浮く。
「痛ったー!」

可染「フハハハ!鬼乃子は無敵!」

鬼乃子の鞭が四方八方から襲いかかる。
まるで複数の蛇が同時に噛みつくような軌道。

竹娘は後退しながら、足先に淡い光を宿す。
蹴りの軌跡が光の弧を描き、鞭を次々と弾き返す。

鬼乃子の表情がわずかに険しくなる。
(……遠距離戦を決め手に出来ないとなると厳しいですね。)

竹娘が一気に距離を詰める。
「遠くより近くが、守りより攻めが得意でして」

鬼乃子は鞭を捨て、拳を構える。
「奇遇……私もです」

二人の姿が残像のように交差する。
竹娘の回し蹴りと、鬼乃子のショートフックがぶつかり合い、衝撃波が地面を割る。

可染は震えながら叫ぶ。
「な、何やってるんだ!その小娘を右から上手く何とかしてその、さっさと倒せ!」

鬼乃子は竹娘から目を離さず怒鳴る。
「チビは黙っててください!!!」

可染「なっ、何だとお!( ノД`)…」

竹娘の蹴りが鬼乃子のガードを割り、鬼乃子のボディが竹娘の腹に刺さる。

二人は互いの腕を掴み合い、地面を転がりながらの乱打戦に突入。
互角に見えるが、竹娘には余裕があり、鬼乃子は息が上がってきている。

可染は涙目で叫ぶ。
「うわああん!鬼乃子が防戦に……!
 いかん、石笠!最終兵器を起動せよ!!」

石笠は敬礼しながら走る。
「アイアイサー!!」

第三項 最終兵器

工場最深部へ走る石笠。
そこには建造中の巨大兵器――

薄暗い巨大ハンガーに、未完成の巨体――
浅間大獣機(あさま・だいじゅうき) が鎮座していた。

全長五十メートル。重量二万五千トン。
装甲は未塗装のまま銀色に光り、ケーブルが無数に垂れ下がっている。

石笠が操作盤に飛びつく。
「よーし……最終兵器、起動す――」

指がボタンを押した瞬間、石笠の顔が青ざめる。
「あっ……やべえ。
 安全装置外す前に……
 カタパルト射出起動ボタン押しちゃった……!」

警告灯が一斉に赤く点滅。

警告音「ピーピーピー!! 射出準備開始!」

石笠
「インターロック組んでないよおおお!!
 控えめに言って私もイカれておりましたあああ!!!」

巨大なカタパルトが唸りを上げる。

ゴゴゴゴゴゴゴ……!

浅間大獣機の足元が震え、未完成の巨体が前のめりに傾く。

石笠「倒れる倒れる倒れる倒れる!!」

次の瞬間――

ドォォォォォォォン!!!!

カタパルトが暴発し、浅間大獣機が“前転しながら”射出される。

バッタン!ゴロゴロゴロゴロ!!

巨大ロボが工場内を転がり、壁を破壊し、配管を引きちぎり、火花が滝のように降り注ぐ。

石笠
「ぎゃあああああああああ!!!
 なんで前転してんの!?
 あっ、下半身、未完成!!!」

浅間大獣機はそのまま和風豪邸の庭に突っ込み――

ドガァァァァァァン!!!!

巨大な火柱が夜明け前の空を照らす。

爆風が敷地全体を飲み込み、竹娘・種男・可染・鬼乃子・石笠、全員が吹き飛ばされる。

可染
「ぎゃあああああああ!!!
 工場がああああああ!!!」

浅間大獣機の爆発で、豪邸も工場も、庭の松も、全部まとめて吹き飛んだ。

第四項 財布を届けに来ただけです

煙の中で、可染は膝をつく。
(……終わった。
 俺の工場……俺の家……
 俺の世界征服の夢……)

瓦礫の山を見つめながら、可染の脳裏に走馬灯のように“夕星重機の歴史”が流れ始める。
(創業八十二年……
 徹夜で図面引いた日々……
 KISARAと鬼乃子を創造し…
 社員旅行(三人)で行った淡路島……
 石笠が勝手に買った高級コーヒーメーカー……
 全部……全部……)

鬼乃子が土まみれで近づく。
「良かったですね。
 受注残、ありませんから。既存案件分、全て出荷済みですし。」

可染は涙目で振り返る。
「そ、そうか……それだけは良かった
 ……ん? そうじゃないだろ!?
 俺の家は!? 俺の庭は!?
 俺の盆栽は!?
 “松風(しょうふう)くん”はどこ行った!?」

鬼乃子は瓦礫の中から黒焦げの盆栽の鉢を拾い上げる。
「……これですか?」

可染「松風くーーーん!!!」
その場に崩れ落ちる可染。

石笠がヨロヨロと現れる。
「控えめに言って……
 私もイカれておりました……(二回目)」

可染は涙を拭きながら叫ぶ。
「お前のせいだよ!!!
 いや違う、俺が指示したんだ……

 いやでもお前が起動したんだ……

 いやでも俺が最終兵器なんて作らせたのが……

 あああああああ!!!
 誰かのせいにしたい、したいのにっ
 俺の顔しか浮かばんのだ!!!!!!」

鬼乃子はため息をつく。
「……可染様。石笠様ひとりを責めないのはご立派です。
 とりあえず、深呼吸を」

可染は大きく息を吸い――
「スゥゥゥ……
 ……ハァァァ……
 ……工場施工して」

鬼乃子
「無理です。
 とはいえ これまでの蓄財のおかげで再建は可能でしょう。
 まあ、2年ほどかかってしまうと思いますが。」

可染
「…2日は無理?」

竹娘は服をパタパタしながら立ち上がる。
「……世界最高峰の科学技術じゃない!? なんか、すごいの見た」

その時、種男が財布を差し出す。

種男「あ、これ。うちの店に忘れてたあなたの財布です。
 また来てくださいね。割引券、入れておきました」

可染は爆発の煙の中で固まる。
「……えっ?
 ……財布?」

種男「はい、財布です。」

可染「……あ、ありがとう。」

鬼乃子と石笠が同時に思う。
((何この空気……))

第五項 京都への帰路

鬼乃子が深々と頭を下げる。
「あの……この度は色々と申し訳ござません。
 京都までお送りさせてください。」

邸宅地下のハッチからミニバンが現れる。
“非常用車両”と印字されているのが何とも切ない。

種男・竹娘「よ、よろしくお願いします。」

続いて可染と石笠も乗り込む。

鬼乃子「なんであなた達も来るんですか!!!」

可染「みんなで少年の料理食べようよぅ。」

竹娘はシートに沈みながら、小さく笑う。
「……なんか、今日いろいろあったね」

種男も笑う。
「はい。
 でも……楽しかったです」

ミニバンは静かに走り出し、なよ竹へ向かっていった。

第六幕 月影に残るもの

第一項 最後の夜

同じ布団で寝る竹娘と種男。
竹娘は種男から少し距離を置き、気をつけの姿勢で天井を見つめていた。

静かな夜気の中、種男がぽつりと呟く。
「僕……今まで友達いなくて。この一週間……本当に、ありがとう」

竹娘は一瞬だけ目を丸くし、すぐに柔らかく笑った。
「大丈夫。
 異星人とも仲良くなれたんだよ?
 マロ君とも……きっと仲直りできるよ」

言葉は軽い。でも声は優しかった。

竹娘は、
“これ以上近づいたら戻れなくなる”
そんな気がして、距離を取っていた。

種男は気づかないまま、静かに目を閉じる。
竹娘は、眠れないまま天井を見つめ続けた。

第二項 別れの朝

白銀歴1204年11月9日(日)

まだ薄暗い早朝。
街灯の光が白く滲む時間帯。

種男は竹娘を、公務先である輝夜文化ホール近くまで送ってきた。
なよ竹からそう遠くない場所。

建物の前で、竹娘は立ち止まる。

言いたいことは山ほどある。
でも――言えない。

竹娘「……じゃあ、ここまででいいよ」

種男「……うん。また……会えるよね?」

竹娘は笑う。
けれど、その笑みはどこか寂しげだった。

竹娘「うん。……またね」

沈黙。風の音だけが二人の間を通り抜ける。
竹娘は、どうやって“さよなら”を言えばいいのか分からなかった。

本当は、
“また会いたい”
“離れたくない”
そう言いたかった。

でも言ってしまえば…。竹娘は、俯いたまま、そっと背を向けた。
(……これでいい。これでいいんだよ、私)

そう自分に言い聞かせながら、彼女は振り返らずに歩き続けた。

第三項 輝夜文化ホール

白銀歴1204年11月9日(金) 10:00

ヒノモト内閣83代総理大臣・番長漁太郎、
京都府長・オッキーナ・重蔵(じゅうぞう)との挨拶と公式会談。

京都府は“かぐや姫ブランド”での新たな観光戦略を考えていた。
そしてヒノモトの中央政府「幕府」は、娯楽産業の提携先にコムニア星州連邦ではなくルナルナを選んだという。

輝夜文化ホールの大会議室。
長いテーブルを挟んで、ヒノモト側とルナルナ側の代表が向かい合って座っている。

中央にはルナルナ王、天峰 篁(あまみね たかむら)。
その右隣に、竹娘が静かに控えていた。

竹娘は姿勢を正し、公務中らしく一言も発さず、ただ王の言葉を聞く役目に徹している。

だが、その存在だけで場の空気がどこか柔らかくなる。

ヒノモト幕府内閣総理大臣・番長 漁太郎(ばんちょう りょうたろう)が、書類をめくりながら笑いをこらえきれずに言う。
「いやぁ、ルナルナさんを選んだというよりですね……コムニアさんの条件が厳しくてねぇ」

京都府長・オッキーナが続ける。
「そうなんですよ。
 “かぐや姫の国籍をコムニアに設定した現代舞台の映画を撮らせろ”
 なんて言われても、京都の町おこしにならないじゃないですか〜笑」

総理が慌てて手を振る。
「今の発言はフィクションということで! 記者の皆さん、そこだけはお願いしますよ〜笑」

会場に小さな笑いが起きる。

竹娘は横目で篁を見る。彼は微笑みながら、落ち着いた声で言う。
「ヒノモトさんの特撮技術は、他国では失われたアナログ技術と最新デジタル技術の融合ですからね。我が国にとっても願ってもない機会です」

その言葉に、総理と府長は満足げに頷いた。

ふと、府長が竹娘の方を見る。
「それにしても……
 かぐや姫の末裔でいらっしゃる竹娘様が、こうして京都に来てくださるなんて。
 本当に光栄です。」

竹娘は軽く会釈するだけで、言葉は発さない。
その控えめな所作が、逆に場の空気を和ませた。

府長は続ける。
「……あの、竹娘様。
 もしよろしければですが……
 京都を舞台にした映画に出演してみませんか?」

会場がざわつく。総理も「おいおい」と苦笑い。

竹娘は一瞬だけ固まった。
篁も横目で「どう答える?」と視線を送る。

竹娘は小さく息を吸い、控えめに笑った。
「私……信じられないくらい演技下手なんです。 学芸会では、いつも“木”の役でした」

一拍の静寂。
次の瞬間、会場がどっと笑いに包まれた。

総理も府長も肩を震わせ、篁も珍しく声を立てて笑う。

府長
「木……!
 いや、それはそれで存在感がありそうですが……
 無理強いはしませんので、いつでもお声がけくださいね」

竹娘は再び会釈し、その控えめな笑顔が場をさらに和ませた。

第四項 本音に近い嘘

会談が終わり、ヒノモト総理、京都府長、篁、そして竹娘が席を立つ。
ホールの扉が開き、一行はそのまま 一般公開の記者会見場 へと誘導された。

竹娘が通路に姿を見せた瞬間、
一斉にフラッシュが焚かれた。

 記者A「月京家は今も国家武術指南役なんですか!?」
 記者B「ヒノモトの印象を教えてください!」
 記者C「京都入りはいつからですか!?」

ヒノモトの為政者たちよりも、篁よりも、竹娘に最も多くの注目が集まっていた。

それは当然だった。かぐや姫の末裔という“象徴”は、政治よりも強い物語性を持つ。
竹娘は軽く会釈し、落ち着いた足取りで大ホールへと進む。
観客席には、最前列に報道陣と文化関係者、その後ろに一般市民席が広がっていた。

その最後尾の席に――当日入場した種男の姿があった。

彼はただ、
「竹娘の姿をもう一度見たい」
その思いだけで足を運んでいた。

壇上に立つ竹娘に、記者がマイクを向ける。
「初めての京都入りはいかがですか?」

竹娘は一瞬だけ迷い、そして笑顔で答えた。
「実は……お忍びで数日前から来てて。
 とっても美味しい料理のお店を見つけたんです。
 また……会いに――
 食べに行けたらって思ってます」

その瞬間、竹娘はふと視線を上げた。

そして――
最後尾の種男と、ほんの一瞬だけ目が合った。

竹娘の脳裏に、種男との思い出が一気に流れ込む。

  • 竹林で出会った時
  • 笑顔、料理
  • 束の間の平和な日常
  • 夜の湖畔、龍の背
  • 抱きついた温もり

胸が、きゅっと締めつけられる。

(種ピー……
 いつか素敵な恋人ができて、
 私のことなんか忘れちゃうんだろうな)

竹娘は、誰にも気づかれないほど小さく微笑んだ。

種男は驚いたように目を見開き、すぐに小さく微笑み返した。

言葉は交わさない。
交わせない。

しかし――
その一瞬で、二人は確かに心を通わせていた。

記者会見が終わり、王と竹娘が退場すると、大ホールは静寂に包まれた。

誰もいなくなった客席に、種男だけがぽつんと残っていた。

別国家の、それも王室の人間。
もう会えないのだろうと悟る。

(竹娘さん……
 いつか素敵な男性のものになっちゃうのかな)

そう考えると、ひどく胸が痛んだ。

種男は拳を握りしめ
気丈に足音を響かせながら
輝夜文化ホールを後にした。

第七幕 おかえりなさい

休日のなよ竹の昼下がり。

店内はいつも通りの静けさで、種男は仕込みの手を止めて、ぼんやりとテレビのニュースを思い返していた。

(……もう会えないんだろうな)

そう思った瞬間、店の扉が――

カラン……小さな鈴の音が鳴った。

種男は反射的に顔を上げる。

そこに立っていたのは――






竹娘だった。

少しだけ息を弾ませ、でも笑顔は柔らかくて、あの日よりもずっと綺麗に見えた。
「今日オフなんだ!」

その一言で、種男の胸が一気に熱くなる。
(……夢じゃない)

竹娘は靴を脱ぎながら、少し照れたように続けた。
「……来ちゃった」

種男は言葉が出ない。
ただ、胸の奥がじんわり温かくなる。

竹娘はカウンター席に座り、頬杖をついて種男を見つめる。
「ねぇ、種ピー。
 私、あの日……ちゃんと言えなかったけど」

種男の心臓が跳ねる。

竹娘は視線を落とし、指先でカウンターをなぞりながら言った。
(……また会えて、嬉しい)
訂正、照れと恥ずかしさが極まり言えなかったらしい。

種男は、安堵か、喜びか、自身の感情を上手く表現できないまま答えた。
「僕は……嬉しいです。 また来てくれて」

「えひっ!? う、うん。」
その声は、当たり前だが、公務の時の凛とした声でも、戦っていた時の強い声でもなく――

ただの――
一人の女の子の声だった。
意図せず奇声をあげたことを誤魔化し、ふっと笑う。
「じゃあ……
 今日も、美味しいもの作ってくださいますか?
 “あの時みたいに”」

その言葉に、種男の胸がまた跳ねた。
(……ねぇ、種ピー。
 私、ヒノモトに来てよかった。
 あなたに会えて……ほんとによかった。)

二人の間に流れる空気は、一週間前よりもずっと近くて、ずっと――

カウンター越しに、竹娘がそっと微笑む。
(……ただいま、種ピー)

その瞬間、種男は初めて気づいた。
(ああ…… この人がいないと、僕の毎日はこんなに静かなんだ)

そして、胸の奥でそっと呟いた。
(……おかえりなさい)


…

……


………



…………





遥か昔――“文明破壊・救済を自作自演して英雄になったクソ野郎ども《エデン》”が裏から歴史をこねくり回してきた。

それから数千年後――
白銀歴1204年。 宇宙には、複数種の霊長類が築いた無数の宇宙都市国家が存在している。

しかし、その繁栄の裏で―― エデンから分離・増殖した団体や個人が、
金融・経済・軍事・政界・司法・教育・メディア・芸術のほぼ全てを掌握し、 自らの存在を隠したまま暗躍していた。

“世界は、とうの昔に乗っ取られている”。

そんな世界で――
竹娘と種男の出会いが、静かに、しかし確実に世界を動かし始めようとしていた。

「竹取合戦」完

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